みちびき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「みちびき」の意味・わかりやすい解説

みちびき

宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が2010年(平成22)9月にH-ⅡAロケットにより打ち上げた準天頂衛星初号機(QZS-1)。準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System:QZSS)は、おもに日本を中心としたアジア・オセアニア地域で利用可能とする地域航法衛星システムである。準天頂衛星システムは、すでにグローバルスタンダードとなっているGPSと組み合わせることで、1メートル以下の精度で自らの位置を決めることができる。日本の天頂付近につねに1機以上の衛星が見えるようにするためには、最低3機の準天頂衛星が必要となり、2010年に打ち上げられた「みちびき」を含め、2018年度には4機体制、将来的には7機体制でのサービスを目ざして開発が進められている。「みちびき」は、近地点約3万2000キロメートル、遠地点約4万キロメートルの楕円(だえん)軌道軌道傾斜角約40度で、23時間56分かけて地球を周回する。衛星の大きさは6.2メートル×3.1メートル×2.9メートルで、打上げ時の質量は約4000キログラム。太陽電池パドルを展開すると25.3メートル、太陽電池パネルによる発生電力は5キロワット、設計寿命は10年以上である。

 衛星測位では、わずか1マイクロ秒(100万分の1秒)の時刻のずれが、約300メートルの測距誤差となるため、衛星には誤差が30万年に1秒以下のきわめて正確で、安定度の高い原子時計(ルビジウム原子時計)が搭載されている。さらにこの原子時計を安定稼働させるために、温度管理などがくふうされている。

 準天頂衛星を活用する実証実験がさまざまな分野で行われており、その多くは、これまでのGPSを上回る位置決定精度と、市街地や山岳地帯における測位信号の連続性に着目したものである。具体的には自動車のナビゲーションシステムの高精度化、自動運転(レーン走行制御)、物流・旅客分野の走行速度や位置、道の混雑具合の確認や到着時間の高精度化、山岳遭難時の迅速な救急救難、農機や建設車両の自動運転などの実用化が進められている。

[森山 隆 2017年3月21日]


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知恵蔵 「みちびき」の解説

みちびき

2010年9月11日に打ち上げられた、準天頂衛星の初号機。GPS (全地球測位システム)を補完・補強するための衛星測位システムの一つ。これに続けて、あわせて3機の衛星を運用し、山間地、ビル陰に影響されず全国をほぼ100%カバーする高精度の測位サービスの提供を実現することを目指している。
準天頂衛星は、涙のしずくのような非対称の8の字形の軌道で日本付近を周回し、静止衛星と同様に地球の自転に合わせた周期をとる。このため、数機の衛星を運用することで、日本の天頂付近に少なくとも1機の衛星が常に見えるようになる。
GPSを利用して位置を3次元的に測定するには、少なくとも4機の衛星からの測位信号を受信する必要がある。このため、GPS衛星の位置が時間により山やビルなどの陰になる場所では、位置の測定が困難になる。これを補うために、準天頂衛星は現在運用中のGPS信号や米国が開発を進めている新型のGPS信号とほぼ同一の測位信号を送信する。準天頂衛星は常に天頂付近にあるので、ビルの谷間などでも信号が捉えやすく、GPSの機能を補完して、これまで困難だったエリアでも安定した位置測定を可能にする。
また、準天頂衛星は、GPSの精度をより向上させるための精密な補正信号を送信する。準天頂衛星からの信号を、これまでのGPSの信号に加えることでGPSの機能をさらに補強し、これまでよりも高精度な測位が実現でき、より正確で精密な位置情報を知ることができる。
さらに、GPSは米国の国防総省によって運用されているので、軍事的な理由により利用に制限が加えられる可能性があるが、準天頂衛星にはその懸念がない。これらの実現によって、衛星測位を利用した高精度の測量や地図更新の効率改善、交通機関など安全要求の高いことがらについての可用性や信頼性の問題が解決可能となり、衛星測位の利用の分野が大きくひろがると期待されている。信号を利用して各地で測位を行う利用実証は、3カ月の初期機能確認を経て、10年12月からを予定している。ただし、実用的な運用には3機程度の準天頂衛星が必要になる。2号機以降の計画は費用なども含めて未定であり、初号機みちびきの技術実証、利用実証の結果次第となる。
なお、衛星の名は公募され、「正確な場所へみちびく」機能や、技術の確立で「未来の新しい社会へみちびく」というミッション内容を的確に表し、最多の支持を得た「みちびき」が愛称となった。

(金谷俊秀  ライター / 2010年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報