改訂新版 世界大百科事典 「ウィスキー」の意味・わかりやすい解説
ウィスキー
オオムギ麦芽,あるいはこれに種々の穀類(オオムギ,コムギ,ライムギ,エンバク,トウモロコシ)を加えたものを原料とした蒸留酒。アルコール分40%内外。起源は明らかでないが,紀元前すでにアイルランドではケルト人が穀類の酒を蒸留していたとも伝えられる。しかし,今日のウィスキーの原型ともいうべきものが成立したのは12世紀ころのことであった。ウィスキーは〈生命の水〉を意味するゲール語のウシュクボーuisgebaugh,ウシュクベーハuisgebeathaから転じたものという。1171年イングランドのヘンリー2世がアイルランドを征服したさい,ウィスキーはスコットランドに伝えられた。15世紀にはハイランドでの製造が確立し,スコッチウィスキーはアイルランドのアイリッシュウィスキーと共存することとなった。アメリカでは,ヨーロッパ人の移住とともにウィスキー製造が伝えられ,18世紀の終りにはウィスキー製造は重要な産業となった。日本は現在,世界でも有数のウィスキー生産ならびに消費国となったが,本格的製造が始まったのは1920年代である。ウィスキーは原料によって,モルトウィスキーとグレーンウィスキーにわけられる。またスコッチ,アイリッシュ,アメリカン,カナディアンの4タイプに大別され,それぞれ原料や製造法によって独特の品質をもっている。ウィスキーの綴りにはwhiskyとwhiskeyとがあり,スコッチ,カナディアン,日本ではwhiskyを,アイリッシュとアメリカンはwhiskeyを用いている。
スコッチウィスキー
モルトウィスキーは麦芽のみを原料とするもので,スコッチがこれを代表する。スコッチのモルトウィスキーはオオムギ麦芽を用いて造るもので,普通は二条種オオムギの優良品種を約1週間かけて発芽させる。発芽といっても芽は穀粒の中で2/3ほどのもので,発根は外部に露出する。これをキルンで乾燥するが,その際,熱源としてコークスを用いるが,麦芽の1~2%に相当するピート(泥炭)をいぶす。この操作によって,スコッチ特有の薫臭がつくのだが,これはウィスキー製造業者が政府の増税策に対して行った抵抗運動の所産であった。すなわち,18世紀末イギリス国内のウィスキーの需要が急激に増大すると,政府は蒸留機の免許税を一挙に15倍にも引き上げた。この増税に怒った業者たちはハイランドの山中に隠れ,以後数十年間密造密売をこととしていたが,その間彼らは燃料の不足を補うためピートを用いた。そのため麦芽に煙香がしみこむことになり,それがスコッチウィスキーの特徴になったのである。こうしてできたモルト(乾燥麦芽)は脱根してから,粗く粉砕して糖化槽に入れ,温水を加えて45~60℃に保つと,約4時間でデンプンは麦芽糖に,タンパク質はアミノ酸に分解して糖化が終わる。この糖化液を80℃近くに加熱し,ろ過して固形分を除き,25~30℃に冷却して発酵タンクに送り,ウィスキー酵母を加えて発酵させる。発酵は約30時間で終わり,アルコール分6~8%の発酵液になる。これをポットスチルという単式蒸留機に送って蒸留する。まず大部分のアルコール分を回収して粗留液をとり,これを別のポットスチルで再留する。再留は時間経過によって初留,中留,後留に区分し,中留分だけをとり,初留,後留分は次の粗留液に加える。この中留分(アルコール分65%内外)がモルトウィスキーとなる部分で,ホワイトオークの樽に詰めて3年以上貯蔵する。初めは無色で香味も粗いが,貯蔵中しだいに着色し,香味もまるくふくよかになる。これを熟成といい,そのメカニズムはまだ不明の点も多いが,ウィスキー成分の部分的な変化,アルコールと水との会合の進行などとともに,とくに樽材の成分であるリグニンの溶出,分解が重要なものと考えられている。樽の大きさは500l入りくらい,シェリー酒の古樽が最適とされている。
19世紀半ばころまでのスコッチは,こうしたモルトウィスキーの,いわば生一本で,きわめて癖の強い地酒であり,かならずしも広く飲まれてはいなかった。それが現在のような声価を得るようになったのは,パテントスチルと呼ばれる連続式蒸留機によってグレーンウィスキーが量産されるようになった結果である。パテントスチルは,1831年ダブリンのコフィーAeneas Coffeyによって発明されたが,この蒸留機の出現によって,発芽してないオオムギ,ライムギ,エンバク,トウモロコシなどの穀類が,麦芽と混ぜることでそのまま原料として使えるようになった。こうして得られるアルコール分約94%の留液を加水して樽熟成すると香味の軽いものになる。これがグレーンウィスキーで,現在では加水してアルコール分60%程度にして,3年以上の熟成を行う決りになっている。
グレーンウィスキーが量産されるようになると,これをモルトウィスキーと調合,つまりブレンドして,ブレンデッドウィスキーを造るブレンダーという業者が誕生した。ブレンダーはそれぞれ秘密の処方をもち,数十種にも及ぶウィスキーをブレンドして製品とする。ブレンデッドウィスキーは,モルトだけのウィスキーにくらべて,軽く飲みやすいものになり,1860年ころからスコッチの主流を占めるようになった。
スコットランドには120余の蒸留所があり,そのうち14がグレーンウィスキーを造っている。これらの蒸留所はハイランド,ローランド,アイラ,キャンベルタウンの4地区にあり,とくにハイランドのスペー川流域には有名な蒸留所が多い。現在2500にも及ぶ銘柄のスコッチウィスキーが造られており,その大部分がブレンデッドウィスキーである。蒸留所の中で最大規模のDCL(ディスティラーズ社Distillers Co.Ltd.)は,77年グレーンウィスキーの量産をめざして当時の有力業者6社が結成した組織で,その後つぎつぎに業者を吸収し,ビッグファイブと呼ばれたヘイグHaig,デュアーDewar,ブキャナンBuchanan,ウォーカーWalker,ホワイトホースWhite Horseの5社も傘下にある。
ブレンデッドウィスキーにはスタンダード物とプレミアム物がある。いずれもモルトの配合率は30~40%とされているが,プレミアム物は熟成年数の多いモルトの配合率を高くしたものである。日本で人気のある銘柄を挙げると,スタンダード物ではホワイトホース,カティーサーク,ジョニーウォーカー赤,J&B,バランタイン,プレミアム物ではジョニーウォーカー黒,オールドパー,シーバスリーガル,ディンプル,ローガンなど。モルトウィスキーだけの製品はシングルモルト,ピュアーモルトなどと表示され,日本で知られているものにグレンフィディック,スプリングバンク,ブリタニア,グレンリベット,モートラックなどがある。
アイリッシュウィスキー
アイルランドで生産される。ウィスキーの原型ともいうべきもので,12世紀にすでに造られていた。16世紀に盛んになり,1000以上の蒸留所があったが,その後は酒税に耐えきれず,100以下に減少し,1921年にはスコッチの伸長,アメリカの禁酒法などの影響で衰微して,最近では4蒸留所のみとなった。アイリッシュの特徴は麦芽の乾燥にピートを用いないので煙香がなく,また発芽していないオオムギ,エンバクを麦芽で糖化,発酵させることにある。蒸留も独特の大きな釜を用いる。第1回の蒸留で平均50%アルコール液をとり,これを再留するので,得られる中留区分はアルコール分が70~75%でスコッチより高い。樽熟成は3年以上で,以前は12年物が普通であり,ブレンドは行わなかった。
カナディアンウィスキー
19世紀以降に製造が始まり,かつてはオンタリオだけで200以上の蒸留所があった。今日ではシーグラムとハイラムウォーカーの二大企業を含めて27の蒸留所となっている。
カナディアンウィスキーは,主原料としてコーン(トウモロコシ),ライムギを用い,オオムギ麦芽で糖化,発酵し連続式蒸留を行い,2種類の原酒を造る。一つはアメリカンウィスキーに似た香味の強いものでフレーバリングと呼ばれ,もう一方はより軽いものでベースといわれる。この両者をブレンドし,ホワイトオークの樽で3年以上熟成させることになっており,普通は6年以上のものを使っている。
カナディアンウィスキーの特徴は味がライトで香りもデリケートである。銘柄としてはシーグラム,カナディアンクラブなどが日本では知られている。
アメリカンウィスキー
アメリカのウィスキー生産は,18世紀末すでに西部を中心に蒸留所5000を数えるほどの盛況であったが,独立戦争後課税問題から紛争が起こり,蒸留者たちは追及の手をのがれて辺地に移った。その一部がケンタッキーのバーボン郡で造りはじめたものから,アメリカのウィスキーを代表するバーボンウィスキーは発祥している。現在バーボンは9州で生産され,銘柄は2000以上になるが,これは法律によって,コーンを原料の51%以上使ったものをバーボンウィスキーとしているためである。その中で本場物ともいうべきは,もちろんケンタッキー産である。バーボン以外では,ライムギ,コムギ,オオムギ麦芽,ライムギ麦芽をそれぞれ原料の51%以上用いたものを,ライウィスキー,ホイートウィスキー,モルトウィスキー,ライモルトウィスキーと呼ぶ。バーボン以下,いずれも蒸留液のアルコール度の規格と,新しいホワイトオークの樽の内面を焦がしたものに詰めて,2年間貯蔵熟成することが条件となっている。以上のほかに,バーボンと同じくコーンを主原料とするコーンウィスキーがあるが,これはコーンを80%以上使い,貯蔵用の樽には焦がさないものか,焦がしたものの古樽を用いることになっている。また,テネシー州産のテネシーウィスキーは,法的にはバーボン扱いであるが,商習慣上はバーボンと区別されている。蒸留後サトウカエデの炭でろ過するもので,独特の芳純さをもつ高級品とされる。なお,上記の各種で2年以上の熟成を行ったものは,ストレートバーボン,ストレートライのようにストレートウィスキーと呼ばれ,これに中性アルコールなどを配合したものをブレンデッドウィスキーと称している。
日本のウィスキー
日本にウィスキーが輸入されたのは明治初年で,明治末期には模造品が製造されていた。第1次世界大戦後,竹鶴政孝はスコットランドに留学し,スコッチの製法を習得して帰国し,寿屋(現,サントリー)の鳥井信治郎に迎えられた。京都郊外の山崎に工場を建設し,1924年から蒸留を始め,29年に国産ウィスキー第1号が誕生した。竹鶴は34年に独立し,ニッカウヰスキーを40年に発売した。第2次大戦後,ウィスキー製造会社が続出したが,現在ではサントリー,ニッカウヰスキー,三楽オーシヤン,キリン・シーグラムの4社で大部分のシェアを占める(ほかに免許場数は30くらいある)。
日本のウィスキーはスコッチタイプで,酒税法上,モルト原酒の混和率とアルコール分によって特級,一級,二級の区分がある。原酒の混和率は特級が30%以上,一級は27~20%,二級は17~10%となっている。ほとんどがブレンデッドウィスキーで,アルコール分は特級43%以上,一級43~40%,二級40%未満である。
生産と消費
ウィスキーの生産量,消費量は,ともに世界中でアメリカが最も多い。生産されるアメリカンウィスキーはそのほとんどが国内で消費されており,1976年では44万kl強であった。同じ年度にスコッチ22万kl強,カナディアン20万kl弱を輸入している。スコッチの生産量は81年ではモルトウィスキーが16.7万kl,グレーンウィスキーが21.4万klであった。日本では81年度に33万kl余を生産しており(一部輸入バルクも含まれている),ほかに輸入瓶詰品もあるので,世界でも有数のウィスキー消費国である。
ウィスキーの飲み方は,ストレートで飲み,次いでチェーサー(追い水)を飲むのが基本であるが,アメリカ的なオンザロック,水割り,炭酸割りが普及している。カクテルにもマンハッタンをはじめウィスキーをベースにしたものがある。
執筆者:大塚 謙一
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