悔過作法(読み)けかさほう

改訂新版 世界大百科事典 「悔過作法」の意味・わかりやすい解説

悔過作法 (けかさほう)

仏事の法要名。世の人々の過ちを悔い,今後の平安を祈る法要。主尊の違いによって,薬師悔過阿弥陀悔過,十一面(観音悔過如意輪(観音)悔過,吉祥悔過,舎利悔過などの種類があるが,その法要の構成には共通する部分が多い。旧正月,旧2月に当たる時期に春迎えの仏事として行われ,修正会(しゆしようえ)・修二会(しゆにえ)の法要としてつとめるのが普通で,数日にわたり,また1日数回にわたる例が多い。もっとも大規模なのは東大寺の修二会で,上七日(じようしちにち)・下七日(げしちにち)の14日間にわたり,毎日6回,日中・日没(にちもつ)・初夜・半夜・後夜・晨朝(じんぢよう)の六時に相当する悔過作法が行われる。こうした場合は,日により,また時(じ)によって法要の細部声明(しようみよう)の曲節に違いがあり,さまざまな様相の変化を呈する。悔過作法の中心は,呪願師(しゆがんし)の唱える〈呪願〉,悔過導師(時導師(じどうし)ともいう)の先導で一同がつとめる〈称名(しようみよう)悔過〉〈宝号唱礼〉〈真言念誦(ねんじゆ)〉〈大懺悔(おおいさんげ)〉(宗派によりいずれも異称がある)などで,これに〈供養文(くようもん)〉《ばい)》《散花(さんげ)》〈回向(えこう)〉その他が配されて,首尾一貫した法要となっている。呪願師の役は,法要全体の統括者である大導師(だいどうし)が兼ねる例が多く,悔過導師は若い僧が時ごとに交代してつとめる例が多い。悔過作法に引き続いてつとめる例の多い法要に,大導師作法,呪師作法があり,悔過作法の中に取り込まれるものに〈牛王加持(ごおうかじ)〉がある。悔過作法のある修正会・修二会では,須弥壇に餅や花をにぎやかに飾ったり,上堂の際の松明たいまつ)を大がかりに作ったりすることがしばしば見られ,独特の雰囲気がある。そのために,東大寺の修二会をさす〈お松明〉〈お水取り〉,薬師寺の修二会をさす〈花会式(はなえしき)〉など,異称で有名なものがある。
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世界大百科事典(旧版)内の悔過作法の言及

【寺事】より

…以下はその代表的な具体例である。 諸宗派共通で(1)に属するものとしては四箇法要(しかほうよう)・講経論義(こうきようろんぎ)法要などがあり,(2)に属するものとしては,祈願を目的とする大般若転読(だいはんにやてんどく)法要・悔過(けか)法要(悔過作法),仏祖・先人の供養を目的とする懺法(せんぼう)法要・講式法要,修身を目的とする布薩(ふさつ)法要,学識試第を目的とする竪義(りゆうぎ)論義法要(竪義論義)などがある。また特定宗派のみで用いられ(1)に属するものに,真言宗の理趣三昧(りしゆざんまい)法要・大曼陀羅供(だいまんだらく)法要,天台宗の曼陀羅供法要,浄土真宗の念讃法要などがあり,(2)に属するものに,祖師供養を目的とする天台宗の御影供(みえく)法要,浄土宗の御忌(ぎよき)法要,浄土真宗の大師影供(だいしえいぐ)作法など,また願生浄土を目的とする浄土宗の十夜(じゆうや)法要,春迎えを目的とする時宗の別時念仏(べつじねんぶつ)法要などがある。…

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