平安時代には、単に「まつ」とも言い、庭上で立てて使う場合は「たてあかし」「たちあかし」とも呼んだ。また、「ついまつ(続松)」と記した例も多く、両者は同じように使われたらしい。鎌倉・室町時代になると「まつび」「まつあかし」「あかしまつ」などの呼び名も生まれた。
灯火具の一種。枯れた松の脂(やに)の多い部分を集め,たばねてつくる。神話では伊弉諾(いざなき)尊が黄泉国(よみのくに)を訪れるとき,櫛の男柱を欠いて燭(しよく)としたとつたえる。国語の〈たいまつ〉は〈たきまつ(焼松)〉の音便であろう。手火松(たひまつ)とする語源説は文献からは成立しない。松を灯火に用いるには,〈ひで〉(根の脂の多い部分)をこまかく割って台の上で燃やすことが,近年まで日本の山村や中国の一部で行われており,松脂をこねて棒にした〈松脂ろうそく〉も用いられていた。平安時代の物語などにみえる〈ついまつ(続松)〉はこの松脂ろうそくのことと思われ,〈たいまつ〉は主として屋外用に,〈ついまつ〉は屋内用に併用されていたようである。中国では古くたいまつの材料には葦が使われることが多かったようで,《正字通》に〈滇人(てんじん)(滇は雲南省)松心をもって炬(きよ)となし,号して松明という〉とあり,《燕間録》に〈深山老松の心,油あること蠟(ろう)のごとし。山西人多くもって燭に代え,これを松明という〉とあるなど,松を灯火に用いるのは異民族の風習として珍しがられた。日本では《令義解(りようのぎげ)》の軍防令に,たいまつは,かわいた葦を心にして,かわいた草で節々をしばり,しばったまわりに松明(しようめい)(脂ある松)をはさんでつくると規定されている。近世の《和漢三才図会》によると,ふつう細い竹を心として,脂のある松,クヌギ,杉などを細く割ったものでつくり,鉄の帯でもとを巻いた。長さ3尺(約1m)くらいで,1時間あまりもつという。福島県須賀川市の〈たいまつあかし〉の行事は,旧暦10月10日の夜に手に手に火をもった青年が丘に集まり,火をふりまわして藪を焼きはらう。ムジナ退治が起源であるといいつたえるが,古くその行事の行われた丘を十日山とよぶように,全国的な〈十日夜(とおかんや)〉の農耕儀礼の一つにほかならない。
執筆者:大森 志郎
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灯火の一種。タケ、マツなどの割り木を手ごろな太さに束ね、その先端に点火し、手に持って照明としたもの。ほかにカヤ、アシ、苧殻(おがら)、枯れ葉なども資材とした。古くは、手に持つ灯火を「秉炬」「手火」と書いてタビと読み、いまもこれをタイといっている地方がある。のちに「炬火」「焚松」「松明」などと書いてタイマツとよぶようになった。今日、タイマツと読まれている松明の語は、本来は、脂(やに)の多い松材の意で、続松(ついまつ)、肥松(こえまつ)のこと。松明には、手に持つもののほか、柱松明(たちあかし)といって、儀式などの際に地面に植えて庭上を照明するもの、投松明(なげたいまつ)といって、夜討ちに際して敵陣に投げ込むもの、車(くるま)松明といって、松明を十文字に組み合わせ、その中央を束ね、三方の先端に火をつけ、敵中に投じて照明とするものなど、いろいろのものがあった。ほかに松明の占手(うらて)といって、松明の燃えぐあいで、その日の夜討ちの運勢を占うことなども行われた。また、民間の習俗としても、清めのために嫁の尻(しり)を藁(わら)松明でたたくことや、投げた松明が消える、消えないで吉凶を占う松明占(うら)などが行われていた。このように松明は、戸外で用いる灯火として、宮廷・武家の儀式、軍陣、葬送などをはじめ、広く民間でも行われてきたが、今日では、大松明に火をかける松明祭の神事や、社寺の祭礼、芸能の場で、わずかに使用されているにすぎない。
[宮本瑞夫]
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…平安時代の物語などにみえる〈ついまつ(続松)〉はこの松脂ろうそくのことと思われ,〈たいまつ〉は主として屋外用に,〈ついまつ〉は屋内用に併用されていたようである。中国では古くたいまつの材料には葦が使われることが多かったようで,《正字通》に〈滇人(てんじん)(滇は雲南省)松心をもって炬(きよ)となし,号して松明という〉とあり,《燕間録》に〈深山老松の心,油あること蠟(ろう)のごとし。山西人多くもって燭に代え,これを松明という〉とあるなど,松を灯火に用いるのは異民族の風習として珍しがられた。…
…夜間や暗所で明りをとるための灯火として,最も基本的なものは炉火,松明(たいまつ),ろうそく,ランプの4種であった。
[炉火]
人間の住居として欠かせない要件は,外界から居住空間を区画する建物と,その内部に燃える火である。…
※「松明」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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