改訂新版 世界大百科事典 「〓華文」の意味・わかりやすい解説
華文 (れんげもん)
ハス(蓮)の花の文様で,仏教美術上重要な文様だが,文様自体は仏教によって出現したわけではない。古代エジプトのスイレンを起源とするロータス文様が,古くメソポタミア,ギリシア,イランなどで愛用された。蓮華文には正面型と側面型とがあり,正面型は満開の花を真上から見た形で,花弁が放射状にならんで円をつくり,ロゼットとも呼ばれる。側面型は蓮弁文ともいい,何枚かの花弁を扇状に開かせて全体として釣鐘型をなし,パルメット文様の原型とされる。側面型ロータス文はエジプトでは唐草文様にとりいれられている。蓮華唐草は古代インドの仏教遺跡で多く見いだされる。蓮華は仏の供養華の代表であり,生命や豊穣また光明の象徴図文でもあった。仏像の台座には多く蓮華座が使われる。花弁が上を向くものを請花(うけばな)型,そりかえって下を向くものを反花(かえりばな)型という。両者混合の形もある。これらの形は柱頭にも用いられる。古代インドの最古の蓮華装飾はアショーカ王石柱の反花型の柱頭であろう。光背にも蓮華文はしばしば使われ,ロゼットそのものを光背にしているもののほか,蓮華唐草を光背の外周にめぐらしているものなどがある。古代インドのストゥーパの塔門や欄楯(らんじゆん)浮彫にはメダイヨン(メダル)の構図の蓮華文が数多く見られる。バールフットやサーンチーの遺跡にはさまざまなデザインのメダイヨンがある。それらはロゼットのままであったり,他のモティーフを混合するものなどバリエーションは数限りない。このようなメダイヨンは菩薩の胸飾の文様にも使われる。中国から朝鮮半島,日本での蓮華文の遺品として重要なのは寺院の瓦の文様である。蓮華円花文が用いられ,花弁の形により素弁,単弁,複弁に分けられる。
執筆者:長田 玲子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報