あいなし(読み)アイナシ

デジタル大辞泉 「あいなし」の意味・読み・例文・類語

あい‐な・し

[形ク]
感心できない。気にくわない。
「親の、今は―・きよし、いひにやらむと」〈更級
おもしろみがない。つまらない。あじけない。
「梨の花…葉の色よりはじめて、―・く見ゆるを」〈・三七〉
調和に欠けている。そぐわない。
老人の事をば、人も笑はず、衆に交りたるも、―・く見ぐるし」〈徒然・一五一〉
どうにもならない。むだである。
「誰も誰もあやしう―・きことを思ひ騒ぎて」〈・東屋〉
(連用形を副詞的に用い)程度がはなはだしいさま。むやみに。やたらに。
「上達部、上人なども―・く目をそばめつつ」〈桐壺
[補説]歴史的仮名遣いは「あい」か「あひ」か不明。語源についても「愛無し」「あひ(間・合)なし」、さらに「あやなし」「あへなし」の音変化などと、諸説がある。

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精選版 日本国語大辞典 「あいなし」の意味・読み・例文・類語

あい‐な・し

  1. 〘 形容詞ク活用 〙 ( 「あいなし」か「あひなし」かは不明 )
  2. ( するべきでないことをしたのを非難していう ) あるまじきことである。けしからぬことである。不都合である。不届きである。よくない。
    1. [初出の実例]「おとりまされりはみゆれど、さかしうことわらんもあいなくて」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
  3. そのことが見当違いである。筋違いなことで当惑する。不当である。いわれのないことである。
    1. [初出の実例]「雪のいと多く降りたるを、うれしうもまた積みたるかなと見るに、『これはあいなし。はじめの際をおきて、いまのはかき棄てよ』と仰せらる」(出典:枕草子(10C終)八七)
  4. そんなにまでしなくともよいのにしている。度を越していて、よくない。
    1. [初出の実例]「つひにたづねいでて、流し奉ると聞くに、あいなしと思ふまでいみじうかなしく」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
  5. そうしても仕方がないのに、している。いまさらはじまらない。むだである。無益である。
    1. [初出の実例]「露けさは、なごりしもあらじと思う給ふれば、よそのくもむらもあいなくなん」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
  6. 何をする気も起こらない。興味が持てない。
    1. [初出の実例]「さはれ、よろづに、この世のことは、あいなく思ふを」(出典:蜻蛉日記(974頃)中)
  7. おもしろみがない。かわいげがない。情緒がない。
    1. [初出の実例]「梨の花、〈略〉げに、葉の色よりはじめて、あいなく見ゆるを」(出典:枕草子(10C終)三七)
  8. ( 連用形の副詞的用法 )
    1. (イ) 常軌を逸してそのことがなされるさまをいう。むやみに。やたらに。むしょうに。しきりに。
      1. [初出の実例]「あこぎ、あいなくいとほしけれど、さてはいり居たらねば、まゐりて見るに」(出典:落窪物語(10C後)一)
    2. (ロ) そうしても仕方がないのに。無意識のうちについ。なんとなく。
      1. [初出の実例]「うたひ給へるに、人々おどろきて、めでたう覚ゆるに、忍ばれで、あいなう起き居つつ、鼻をしのびやかにかみわたす」(出典:源氏物語(1001‐14頃)須磨)

あいなしの語誌

表記は「あひなし」もあるが、ハ行転呼音後の混用から生じたか。語源としては、「愛無し」「間(あはひ)無し」「あやなし」「合無し」「あへなし」「飽い無し」など諸説がある。平安中期に多く用いられ、妥当性道理がない、不都合だという意が基本だから、「合無し」説がよいが表記に難があり、「あいなし」に少し先行する「あやなし」の音便説が有力。「あやにく→あいにく」、「あやまち→あいまち」など単母音「あ」の直後の「や」が「い」に変化する例と同様か。

あいなしの派生語

あいな‐さ
  1. 〘 名詞 〙

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