翻訳|outreach
働きかけることや、援助すること。手を伸ばすという意味の英語から派生したことばで、福祉の分野では「訪問支援」などと訳される。
援助者の行動はアウトリーチ活動とよばれ、おもに以下の二つの目的の活動をさす。(1)芸術家や公的文化施設などが、通常の活動の場で接する機会の少ない人々に対して、出張コンサートやイベントなどを催すことや、研究者や研究機関が研究成果をシンポジウムなどで積極的に周知すること、地方自治の分野でワークショップなどを通して住民との新たな接点を広げて積極的に働きかけること。こうした「出前」的な活動により子供が宇宙について学ぶきっかけをつくったり、将来的に聴衆となる音楽ファンを育てたりするなどの意義が生まれる。(2)医療や社会福祉の領域において、予防的な支援や介入的な援助が必要な場合、援助者が被援助者のもとへ出向き、具体的な支援を提供すること。さまざまな問題を抱えながらも、支援の必要性を自覚していない人や、相談する気がなく支援のための窓口を訪れない人は数多い。こうした、自治体や公的機関による一般的な支援対象から抜け落ちてしまう傾向にある被援助者の状況にあわせ、地域のネットワークを生かしながら、具体的な援助活動を実行していくことが求められる。
アウトリーチ活動は、アメリカで公民権運動などが盛んであった20世紀後半の社会的背景のもとに培われ、社会的に不利益を被っている人たちに対する援助活動として徐々に盛んになっていった。なかでもウィスコンシン州立病院が中心となり、重い精神障害をもつ人々を支えるため、医療や福祉の専門家が行っていた訪問活動が広く知られている。日本では2010年(平成22)に施行された「子ども・若者育成支援推進法」(平成21年法律第71号)に基づく、アウトリーチ(訪問支援)研修が実施されている。これは社会から孤立し、引きこもり状態などに陥っている子供や若者を支援するための人材を養成するものである。また、地域においては、虐待を受けている子供や高齢者、生活困窮者などに対して伴走型支援を行うため、コミュニティソーシャルワーカーの養成を行い、ソーシャルワーカーが中心になってアウトリーチチームを組み、訪問や支援を行う活動が行われている。
2013年には精神保健福祉法(正式名称「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」昭和25年法律第123号)が一部改正され、翌2014年に施行されたことなどにより、長期入院経験者や未治療者などを訪問支援するアウトリーチの一部は診療報酬化され、保健医療サービスの対象になった。精神障害者の地域生活への移行や支援の遅れによる重症化を防ぐ目的で、保健所や医療機関などの専門職で編成された多職種チームが、保健・医療・福祉サービスを包括的に提供するための基盤整備が進められることになった。
[編集部 2017年8月21日]
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
(扇田昭彦 演劇評論家 / 2007年)
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