日本大百科全書(ニッポニカ) 「アカゲザル」の意味・わかりやすい解説
アカゲザル
あかげざる / 赤毛猿
rhesus monkey
[学] Macaca mulatta
哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科の動物。英名リーサスモンキー、別名をベンガルザルともいう。パキスタン以東、インダス川上流と揚子江(ようすこう)河口を結ぶ線より南のアジアに分布する。ただし、同属のボンネットザルM. radiataがすむインド半島南部と、カニクイザルM. fascicularisがすむ東南アジアの島々には分布していない。マカック属ではもっとも広域に分布し、また森林地帯から比較的乾燥した地域まで、多様な環境にすんでいる。とくにインドでは、ヒンドゥー教の宗教上の理由で保護されており、村落の周囲や、寺院の境内、駅など町中でも普通にみられ、個体数はむしろ森林の中より多いという。しかし村落の近くでは、彼らが畑の作物を荒らすので人間との対立関係が厳しくなり、減少の傾向を示している。体毛は背側が赤褐色で、腹側は白い。体長50センチメートル、尾長25センチメートルで、体重は7~8キログラムになる。食性は果実、木の芽など植物性食物を中心とする雑食性で、昆虫、トカゲなど小動物も食べる。昼行性で、泳ぎがうまい。10~80頭の群れをつくり、群れには数頭の雄と、その約2倍の雌が含まれていて、雄の間には明確な順位がある。群れには決まった遊動域があり、隣接群との間には優劣関係が認められる。
飼育が容易なこともあって、古くから医学や心理学などの分野で実験動物として広く用いられ、脳の構造や各種の生理値がもっとも詳しく知られたサルである。また、1938年にインドからカリブ海のサンチアゴ島に送られたアカゲザルの群れを対象として、アメリカの霊長類学者カーペンターC. R. Carpenter(1905―1975)が行った性関係の研究は、第二次世界大戦後盛んになった霊長類の生態学的、社会学的研究の先駆をなす画期的な業績の一つとして有名であり、この島では今日も引き続いて研究が行われている。
[川中健二]