改訂新版 世界大百科事典 「旧世界ザル」の意味・わかりやすい解説
旧世界ザル (きゅうせかいざる)
Old-World monkeys
アフリカ,アジアの旧大陸に生息するサル類を指す。これらは霊長目オナガザル科Cercopithecidaeに分類され,さらにオナガザル亜科Cercopithecinae,コロブス亜科Colobinaeに二大別される。前者にはマカック類,マンガベイ類,ヒヒ類,グエノン類などが,後者にはコロブスモンキー類,ラングール類などが含まれる。旧世界ザルは新世界ザル,ヒト上科とともに真猿類を構成する一つの柱である。新世界ザルは,両鼻孔の間の幅が広く,広鼻類Platyrrhiniと呼ばれるのに対し,旧世界ザルおよびヒト上科の種は両鼻孔間の幅が狭いので狭鼻類Catarrhiniと呼ばれる。とくに旧世界ザルだけを指して狭鼻猿類Catarrhine monkeysと呼ぶこともある。狭鼻類の歯式はである。
旧世界ザルの外見はきわめて多様である。体重が1.5kgにしかならないタラポアンモンキーのように小さな種から,大きな雄は50kgにもなるマンドリルのように大きな種が含まれ,体色はさまざまであり,尾が体長より長い種もいれば,ほとんどない種もいる。また頭部は比較的まるいものからヒヒ類のように鼻口部が著しく突出したものもいる。外形で共通する点は,すべてのつめが平たいことと,左右のしりにあるたこである。このしりだこは皮膚の一部が角質化してできたもので,樹上で座るときに体を安定させるのに役だっている。行動の面では,すべての種が昼行性で,巣をつくらない遊動生活者であり,両性からなる安定した群れをつくって生活するという共通点をもつ。移動は地上または樹上の四足歩行が一般的である。長い尾をもつ種でもそれで物を把握する能力はないが,いずれの種も手先はきわめて器用である。
旧世界ザルの二つの亜科は,いくつかの対照的な特性を備えている。オナガザル亜科は雑食の傾向が強く,植物のさまざまな部位のほかに昆虫などもよく食べ,哺乳類を捕食する種もある。種によって樹上生活者から地上生活者までの幅広い変異を見せ,その生息環境はさまざまな森林,サバンナ,草原,半砂漠と多様である。冬季に積雪する地帯にまで進出し,寒地によく適応した種ニホンザルもこの仲間である。この亜科は霊長類本来の雑食性を保持し,地上へ進出することによって新しい生活空間に適応放散したグループといえる。これに対してコロブス亜科にはベジタリアン,とくにもっぱら木の葉を食べている種が多く,リーフ・イーターとも呼ばれ,葉食に適した特殊化した大きな消化器官をもつ。この亜科のサルのほとんどは森林の樹上生活者であって,森に閉じこもり葉食に偏食化していったグループということができる。
旧世界ザルの亜科以下の分類には,いまだに議論が残されている。例えば,ある学者はオナガザル亜科を5属33種に,コロブス亜科を6属23種に分類するが,別の学者はそれらを8属42種と5属30種に分類する。さらに問題なのは,オナガザル亜科では異種間の混血が自然状態で見られることである。とくに,マントヒヒとドグエラヒヒ,ドグエラヒヒとキイロヒヒの間では大規模な混血が見られ,種の分類規準の再検討が迫られている。
旧世界ザルは1雄1雌の集団をつくるメンタウェーラングールという唯一の例外を除くと,すべて単雄多雌か多雄多雌の群れをつくって生活している。そのサイズは数頭から数百頭までいろいろある。単雄群であるか複雄群であるかはだいたいにおいて種によって決まっているが,両型をもつ種もある。しかし,いずれもこれらの群れ間を雄だけが移籍し,雌が群れ継承の核となるから,旧世界ザルの社会は母系的であるといえる。複雄群をつくる種では,群れの雄間に直線的な優劣の順序が見られることが多く,それを順位制と呼ぶ。雌間にも明確な順位が認められる種が多い。妊娠期間は約165日から240日,通常1子産で2子産はきわめてまれである。
執筆者:黒田 末寿
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報