改訂新版 世界大百科事典 の解説
アクティビティ・アナリシス
activity analysis
〈活動分析〉と訳される。生産活動を分析する場合,経済学では伝統的に生産関数が鍵概念として利用されてきた。生産関数は,生産物の産出量と資本・労働・原材料などの生産要素の投入量とを数量的に関連づける関係であるが,この関係を背後から規定するのは生産技術であるとされる。しかし,ここにいう技術はごく抽象的な概念であって,現実の生産技術との結びつきは,必ずしも明りょうではなかった。アクティビティ・アナリシスは,現実の工学的生産技術のもつ特徴をできるかぎり忠実に抽象化したうえで,それを鍵概念として生産分析を操作可能な形式で再構想しようという,数理経済学上の試みである。1950年前後からアメリカの経済学者クープマンスTjalling Charles Koopmans(1910-85)らを中心に,OR(オペレーションズ・リサーチ)学者,数学者,統計学者などが協力して学際的に研究された。学問領域としては,50年代までにすでに理論的基礎が完成し,近年では独自の領域として言及されることはまれだが,これはこの領域が死んだためではなく,生産分析における当然の前提として基礎理論の不可欠の一部に組み込まれ,いわば正統理論化された現実の反映にほかならない。さらに,アクティビティ・アナリシスによってはじめて生産の経済分析を線形計画法やゲーム理論と本質的に関連づけることができるようになり,また投入産出分析(産業連関表)の理論的基礎が用意された事実も見逃せない。
アクティビティ・アナリシスの鍵概念は工程(アクティビティ)である。工程はある特定の生産技術に対応するもので,数学的にはベクトルで表現される。ある技術の特徴はベクトルの成分(産出量および投入量)を指定することで完全に記述できるとみなされる。さらに分割可能性(工程はいかなる水準でも操業可能である)と加法性(相異なる工程を互いに独立に同時に操業しうる)が基本的想定として付加される。前者は経済学上の〈規模に関する収穫不変〉の想定に,後者は〈外部性の欠如〉の想定にそれぞれ対応する。以上により,生産構造を線形数学の枠組みで分析することが可能となった。アクティビティ・アナリシスの成功は,これまで経済学では利用されることのなかった新しい数理的手法の応用への道を開いたといえる。
執筆者:時子山 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報