日本大百科全書(ニッポニカ) 「アジア式農業」の意味・わかりやすい解説
アジア式農業
あじあしきのうぎょう
アジアの農業について、ホイットルセーDerwent Stainthorpe Whittlesey(1890―1956)ほか欧米人の地理学者などからいわれている農業生産様式の一つ。アジア式稲作農業とアジア式畑作農業、あるいは集約的稲作農業と集約的畑作農業とに分けられるが、稲作・畑作とも大きくみて手労働中心、労働多投、零細規模、低い労働生産性、自給的生産などの諸点を特色とする。このうちアジア式稲作農業は、東アジアから南アジアにかけてのモンスーン地帯の比較的降水量の多い地域(年降水量1000ミリメートル以上)でみられる。低平な沖積平野を中心に展開するが、人口密度が高く、水利に恵まれた場合には、日本、ジャワ島、フィリピンのように山地に棚田(たなだ)が造成されることもある。稲作は、土壌的には許容範囲は広いが、気候的には生育期間の3~4か月が少なくとも月平均気温20℃以上(出穂(しゅっすい)前約2週間の穂ばらみ期の最低気温が18~20℃以上、出穂・開花期の最高気温が25℃以上、積算温度が2400℃以上)であり、かつ1000ミリメートル以上(理想的には1800ミリメートル近く)の降雨が必要である。アジア式畑作農業は、稲作農業地域の周辺で年降水量が300(耐乾性の強いコウリャンの場合。一般的な小麦の場合には500ミリメートル)~1000ミリメートル、または作物生育期間5か月の月平均気温が10℃以上の範囲に分布する。主要分布地域と栽培作物は、中国の華北(小麦、トウモロコシ、綿花)、東北(小麦、トウモロコシ、大豆、コウリャン)、デカン高原(綿花、雑穀、ラッカセイ)、パンジャーブ地方(小麦、綿花)などである。なお1960年代以降、「緑の革命」で灌漑(かんがい)施設の整備、化学肥料・農薬の使用、農業技術の革新や多収量品種の導入などが行われたことにより、土地生産性の向上がみられる。また工業化の進展に伴い小型農業機械の普及も進みつつある。
[新井鎮久・井村博宣]