アダド(英語表記)Adad

改訂新版 世界大百科事典 「アダド」の意味・わかりやすい解説

アダド
Adad

本来は西方セム系の嵐・雷電の神で,その神名も雷鳴のとどろきを意味するḥddに由来する。シリア地方ではハダドHadadと呼ばれたが,普通はアッカド語圏の神とみなされている。文書では発音のいかんにかかわらずIMと書かれるが,標準的なアッカド語呼称はアダドである。ただし,アモリ(アムル)系の人々の間ではアッドゥAdduとも呼ばれた。この神名はすでにファラ時代(前3千年紀中葉)の神名表に現れることから,同神はかなり古くから南部メソポタミアでも知られていたと思われるが,とりわけその祭儀はアッカド時代(前2334-前2154ころ)以後の北部メソポタミアに広く見られた。シリア,パレスティナではバアルと同一視されることもあった。《ギルガメシュ叙事詩》の第11書板に記されている洪水伝説では,アダドがシュラトおよびハニシュの1対の従神を従えた雨嵐の神として登場する。配偶神はシャラShala。そのシンボル牡牛,雷電などである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アダド」の意味・わかりやすい解説

アダド
Adad

バビロニアおよびアッシリアパンテオンの偉大なる気象神。風の主エンリルが地上界の神になったとき,そのかわりに雷雨の支配権を握った。アダドは2つの性格,すなわち,雨風によって肥沃をもたらす豊穣神としての性格と,暴風雨,雷,洪水によって自然を破壊し,暗黒と死をもたらす神の性格とをもつ。また,それらの性格から,シャマシュとともに未来を喚起する特権をもつ託宣の神としても崇拝された。天神アヌの息子あるいは大地の神ベルの息子と呼ばれる。聖動物は雄牛とライオン,シンボルは糸杉,牛の背に乗り,片手に稲妻を持つ形で表現される。起源は不明であったが,近年北シリアのラス・シャムラの発掘により,アシアニック語系民の最上の神であることがわかった。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アダド」の意味・わかりやすい解説

アダド
あだど
Adad

メソポタミア神話の天候神。暴風、雷、雨のほか洪水や戦いの神でもあった。本来は東地中海岸地方に住んでいた西セム人の神で、カナンでハダドとよばれていたが、アッカドのランマヌ神とも同一視され、『旧約聖書』ではハダデ・リンモンとよばれている(「ゼカリヤ書」12.11)。ヒッタイトではテシュブとよばれ、しばしば石碑にその姿が表された。メソポタミアの各地に、この神に捧(ささ)げられた神殿が建てられた。

[矢島文夫]

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百科事典マイペディア 「アダド」の意味・わかりやすい解説

アダド

古代メソポタミアの神。ハダドHadad,アッドゥAdduとも。雷雨,暴風,洪水など自然の破壊力を象徴する気象神であり,配偶神はシャラShala。シンボルは牡牛,雷電など。→バアル

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世界大百科事典(旧版)内のアダドの言及

【雨】より

…降雨が,雷を武器として戦う勇壮な神の活動によって起きるという信仰は,多くの地域に共通して見いだされる。その原型の一つを成したと思われるのは,怒りが洪水や干ばつの原因となると信じられて恐れられた,メソポタミアの雷神アダドで,その性格はヒッタイトのテシュブや,旧約聖書に登場するフェニキアのバアルなどに,はっきり継承されており,バアルとの習合を通して,イスラエルの神ヤハウェにも部分的に受け継がれている。インド神話の神々の王インドラも,これらと酷似した勇猛な雷神で,雨水をせき止めて干ばつを起こす悪竜ブルトラを,雷を投げつけて殺し,河川に水をあふれさせ,乾いた大地を潤す。…

【シリア】より

… シリアの古代宗教は,基本的には農耕やオアシスをめぐる豊穣崇拝であり,各都市はそれぞれ独自のバアルBaal(男神)とバアラトBaalath(女神)をもっていたが,時とともにギリシア,ローマ,バビロニア,アラビアなどの神々との習合が起こった。また,フルリ人の主神ハダド(アダド)は内陸部シリアでとくに広く崇拝されたが,バアルと習合していた。バアルは雷神・戦神の性格をもっていたが,その後バビロニアの宗教の影響の下に,至高の宇宙神(天神,太陽神)となり,一神教的色彩を強めた。…

※「アダド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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