ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アダブ」の意味・わかりやすい解説
アダブ
adab
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アラビア語で徳性や文学の意に用いられる。この語は歴史上さまざまな意味の変遷を経た。ジャーヒリーヤ時代には礼儀作法やよき徳性を表すのに用いられたが、ウマイヤ朝ではしだいに詩や散文など言語諸学へと意味領域が広がり始め、アッバース朝に入ると、よき人格を養うための知識とか諸学を基礎とする知識全般をさすようになった。
9世紀以降になると、処世の知識、すなわち支配者ないしは支配者に仕える書記階級の教養となる知識をよぶようになり、哲学、論理学、天文学、化学、医学、歴史、詩歌などに関する広い知識をさすようになった。この時代に、イブヌル・ムカッファーによる『小アダブと大アダブ』や、イブン・クタイバによる『書記のアダブ』などの書物が著され、アラビア文学史上アダブ文学の名で知られる新しいジャンルが成立した。しかし、12世紀ごろになると、しだいにアダブは狭義の文学すなわち詩歌と散文、これに関係をもつ文法学、辞書学、韻律学、修辞学、文学評論などのみを示すようになった。現代では、文学のほか、文化、洗練されたマナー、美文などの意味にも用いられることがある。
[池田 修]
…これはアブド・アルハミード・アルカーティブ‘Abd al‐Ḥamīd al‐Kātib(?‐750)によって確立された。彼の弟子イブン・アルムカッファーおよびジャーヒズを経てアラブ散文文学,アダブadab文学(アダブは,アラビア語で礼儀作法,教養を表す)は頂点に達する。
[アッバース朝時代]
8世紀に入るとアラブ文学の中心地はイラクの都市に移った。…
…その担い手は,大部分がイラン系の新改宗者からなるカーティブ(書記)で,彼らはイスラム教徒の平等を説いたコーラン49章13節を拠り所とし,そこに記されたシュウーブ(民族,単数形はシャーブsha‘b)を自らの呼び名とした。彼らはアダブ文学作品の著者でもあり,それを武器としてアラブ文化に対する伝統的イラン文化の優越を主張した。イスラム研究者ギブはこの運動の本質を,当時のカーティブがイスラム帝国の政治・社会制度と価値観とを,彼らの理想としたササン朝のそれに置き換えようとしたものとみる。…
※「アダブ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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