改訂新版 世界大百科事典 「アテン」の意味・わかりやすい解説
アテン
Aten
古代エジプトの太陽神。アトンAtonともいう。もともとは天体としての太陽(日輪)そのものをさしたが,新王国時代になって太陽神の一人として神格化され,イクナートンの宗教改革によって,従来の国家神アメンにとって代わり,宇宙を創造し,その秩序を維持し,万物に生命を賦与する唯一絶対の神とされた。エジプトの尊崇厚いヘリオポリスの太陽神ラーがアテンとして復帰したことを告知する長い正式名称は,神々の王としてのアテンの地位を表すため,王名と同じカルトゥーシュで囲まれている。イクナートン自らつくったとみられる《アテン賛歌》は,慈愛に満ちた太陽神の恵みをたたえており,しばしば聖書の《詩篇》104章と比較される。他の神々とちがい祭祀の対象としての神像をもたず,露天の祭壇の前で太陽そのものが礼拝された。浮彫では,日輪と地上へ向かって伸びる光線(先端は手で終わる)とで表現され,手は生命の象徴アンクankhの護符をさしだしている。
執筆者:屋形 禎亮
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報