日本大百科全書(ニッポニカ) 「アトレウス」の意味・わかりやすい解説
アトレウス
あとれうす
Atreus
ギリシア神話の英雄。ペロプスとヒッポダメイアの子。兄弟ティエステスとの醜い争いは、エテオクレスとポリネイケスの話などと同様、ギリシア神話における兄弟争いの典型をなしている。
兄弟は、異母弟クリシポスを殺したのちミケナイ(ミケーネ)のステネロスのもとに逃げた。アンフィトリオンを追放していたステネロスは、ミケナイを2人にゆだねたが、やがてその子エウリステウスも後継ぎを残さずに死んだため、王座をめぐる2人の卑劣な争いが始まった。まずティエステスは、アトレウスの妻アエロペと情を通じて、兄弟の所有していた金毛の仔(こ)羊を盗み出し、王権は金の羊毛をもつ者がとるべしと提案してアトレウスの合意を得た。しかし、ティエステスが王になると、ゼウスはアトレウスのもとにヘルメスを送り、太陽が逆から昇ればアトレウスが王になるとの約束を兄弟に結ばせた。すると太陽は西から昇って東に沈み、約束どおりアトレウスが王となった。おごり高ぶったアトレウスは、ティエステスの子供たちを殺害してティエステスの食膳(しょくぜん)に供したのち、彼を追放した。父親を知らずにアトレウスの館(やかた)で成人したティエステスの息子アイギストスは、アトレウスからティエステスを殺すよう命じられたとき、本当の父親がだれであるかを知って逆にアトレウスを討ち、父にミケナイの王位を与えた。なおアトレウスとアエロペの間には、トロヤ戦争で有名なアガメムノンとメネラオスが生まれている。
[小川正広]