アフリカの大学改革(読み)アフリカのだいがくかいかく

大学事典 「アフリカの大学改革」の解説

アフリカの大学改革
アフリカのだいがくかいかく

アフリカの大学をめぐる環境の急激な変化に伴って,大学ガバナンス財政から教育内容に至るさまざまな大学改革(アフリカ)が進められている。一連の改革は,従来の政府主導による大学経営から,大学自治と成果主義,説明責任を拡大させる方向に向かい,また民間部門参入とその急速な拡大に合わせて,質保証の制度化と,その枠組みの共通化に向かっている。

[改革の背景]

アフリカの大学は1980年代からの停滞期を経て,2000年以降は拡大期を迎えている。ユネスコによれば,1980年にアフリカ全土で約59万人だった高等教育就学者数は,2000年には273万人,10年には590万人へと増加している。これは国立大学の受入れ規模拡大に加え,私立大学の急成長によるところが大きい。21世紀に入り,知識基盤社会の到来,グローバル化の進展,情報通信技術の普及とあわせて,高度専門家人材に対する需要が高まっている。また欧米で先行した大学の国際化の動きも加速している。こうした世界的な追い風に加えて,多くのアフリカ諸国において政治面での民主化が進み,好調な経済面での自由化政策が拡大するとともに,中等教育の拡大による進学希望者が増加するなどの内部要因が相まって,大学改革への圧力が高まってきている。以下に,改革の実態を,事例を交えつつ概説する。

[改革の実態]

[アフリカの大学自治とガバナンス] エチオピアの大学では2003年の高等教育法成立以降,大学の自治権が拡大している。アジスアベバ大学ほか2大学以外は教育省直轄だったが,すべての公立大学に自治権が与えられた。自治の範囲は人事,財政から国内外の機関との連携にまで及ぶ。ケニアの大学では政府と大学との間にパフォーマンス契約が結ばれ,この契約の下で公立大学に経営権が認められている。ナイジェリアの大学では2003年以降,独立法人として大学に裁量権が付与され,大統領による学長任命制から大学評議会による任命制へと変わった。

[大学財政] 大学自治の拡大は財政面での改革を伴って実施されている場合が多い。とくに公立大学では,コストを抑えながら大学の規模を拡大するためのさまざまな財政改革が実践されている。政府による補助金の一部廃止,学資融資制度,学生数に応じた予算の一括配分などに加えて,大学内企業の設立,公費学生と私費学生の並列制,授業料や利用者負担サービス制の導入など,大学側による試みも広く展開されている。こうした施策によって,大学による財源獲得能力が高まり,政府への資金的依存が緩和される効果を生んでいる。

[学術研究面の改革] 大学の自治権と財政面での裁量権の拡大は,社会経済の需要に対応した教育内容での変革を余儀なくしている。公立大学においては産業構造に即した新しい学科,コースの創設,地元企業との共同研究,情報通信技術の応用などが進められている。私立大学では学位授与プログラムに加え,証明書を授与する比較的短期のプログラムを提供する大学以外の高等教育機関の増加が顕著である。とくに私立大学ではビジネス,コンピュータ,会計,マーケティング,経済学,通信などの専門コースを提供する場合が多く,高額な投資を必要とする科学,医学,工学はほとんど見られない。質保証の面では大学教育の民間参入,さらには国際化の進展に対応するため,1982年に合意されたアフリカ高等教育の学位資格に関するアルーシャ協定(アフリカ)が2002年に改定されている。

[マケレレ大学の改革(ウガンダ)例]

国家元首である大統領が学長を務めていたウガンダのマケレレ大学では1992年,大学自治権の拡大要求に応えるため,国家的な財政危機に瀕する中で大学が財源確保の策を導入することを条件に,ムセベニ大統領が学長を退く意図を表明した。この年,それまで無償だった学費の徴収が始まり,翌93年には学内から新学長が選任された。これを機に大々的な大学改革が始まる。第1に,従来の教育省による大学計画策定に代えて大学独自の戦略計画作りが始まり,1997年には3ヵ年計画が,さらに2000年からの5ヵ年戦略の枠組みが関係者の参画を得て大学評議会により採択された。第2に,代替財源の確保を目指し,政府からの補助金に全面的に依存した体質から脱却し,1999年には開発予算の6割を非政府予算から捻出している。従来の公費学生に加えて初めて学費を導入し,90年代末までには学費を支払う学生が全体の8割に達し,大学収入の半分以上を占めた。この施策により,学生数も飛躍的に増加している。第3に,営業部門を学内に設置し,学生寮の運営,メイズ製粉,パンの製造販売,建設事業,出版事業を商業ベースによって運営させている。また大学教員がコンサルタントサービスを提供した場合,それまでの個人収入扱いから大学で管理費を積み立てる制度に切り替えた。

 改革の対象は学術面にも及び,カリキュラムの拡大,改訂,多様化が進んでいる。アグリビジネス経営,国際関係,公共経営倫理などの修士コース,コミュニティ・フォレストリー,森林科学などの学部コースが新たに開設され,地域の社会経済ニーズへの適応を図っている。また,年間日程の有効活用を目指した4学期制から2学期制への移行や,学術的質保証委員会の設置も実現している。
著者: 吉田和浩

参考文献: Musisi, N.B. and Muwanga, N.K., Makerere University in Transition 1993-2000: Opportunities and Challenges, Fountain Publishing: Kampala, 2003.

参考文献: Varghese, N.V., Governance reforms in higher education: “A study of selected countries in Africa” a theme paper prepared for Policy Forum on governance reforms in higher education in Africa, Nairobi Safari Lodge, Kenya, 16 May, 2013.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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