翻訳|community
コミュニティという語は,(1)原始共同体,村落共同体というように歴史学的概念として使われることが最も多いが,(2)社会学的概念としても使われる。(1)については〈共同体〉の項目を参照されたい。ここでは地域社会を分析,記述する用語として規範的かつ積極的意味を込めて用いられた社会学的概念について述べる。しかし,(1)と(2)の間に共通性のあることも見逃せない。それを抽出することによって,より高い抽象度をもったコミュニティまたは共同体という用語の意味内容ばかりでなく,コミュニティ(共同体)がいかなる条件に支えられて生み出されるかという点についても理解を深めることができる。
第1に指摘できることは,連帯と闘争との相互増殖性という点である。闘争が連帯を生む。社会的連帯の境界は野放図に拡大しうるものではなく,闘争を通じてその広がりが区画される。人々が連帯する,あるいは集団や組織の間に(またはその内部に)連帯的関係ができあがるためには,共通の敵を必要とする。コミュニティ(共同体)は人々の連帯の場である。第2に,コミュニティ(共同体)には理念の共有とシンボル統合が欠かせない。これによって社会的境界が鮮明に画定され,ウチ(俺たち)とソト(奴ら)の線引きが行われる。それはまた成員の集団に対する道徳的コミットメントを強化する。その集団に特有な価値は社会統合と連帯の象徴的メディアである。この道徳的コミットメントは,成員のソトへの社会移動を抑制し,成員の外集団への多元的帰属に歯止めをかける。したがって成員の個性化もある範囲内に抑えられることになる。第3に,コミュニティ(共同体)形成の客観的基盤として成員間の利害共有があげられる。外集団との激しい闘争,成員の外集団への少ない移動,成員の一元的な集団帰属意識などを通じて,成員間の利害共有が促される。その蓄積された成果がコミュニティ(共同体)資産であり,それが闘争あるいは連帯の客観的基盤となる。こうした見方をすれば,現代社会にもコミュニティあるいは共同体と呼ぶべきものが数多く存在している,あるいは存在しうるだろうことが推察されよう。そればかりでなく,この用語が元来は社会空間(その特定の性格)を指示してはいても,狭い意味での地域性とはかかわりのないものであることも容易に理解されるだろう。企業共同体という言葉も人類共同体という表現も,こうした見方をとることによってはじめて意味あるものとなる。
執筆者:稲上 毅
コミュニティの概念の出自はR.M.マッキーバーによって,アソシエーションassociation(機能社会)と対置して,社会学の基礎用語として提起されたものである。マッキーバーは社会構成を分析するために,自然的契機(血縁,地縁など)にもとづいて成立する集団としてのコミュニティと,いろいろな関心にもとづいて成立する利害関係的集団としてのアソシエーションとを考え,両者が複雑に絡みあいそれぞれの関心が質的・量的に増大,異質化しながら対立していることが現代社会の様相の一つをなすと説いた。コミュニティを今日的に定義すれば次のようになる。すなわち,(1)地域社会という生活の場にあって,(2)市民としての自主性と主体性と責任とを自覚した人々によって,(3)共通の地域への帰属意識と共同の目標と自分なりの役割意識とをもって,(4)共通の行動がとられようとするその態度の中に見いだされるものである。とくに,(5)生活環境を等しくし,かつそれの上昇によって生活を向上させようとする共通利害の方向で,人々が一致して地域集団活動を展開させるとき,そこにコミュニティの発現形態を見る。もう少し一般論的にいえば,コミュニティをコミュニティたらしめている規定要因は,古くは,(1)地域的条件いいかえれば地域性,範域性と,(2)相互関連的条件いいかえれば相互作用性,共同性(共通慣習体系)とである。しかしこの(1)と(2)との予定調和はもはや失われ,意図してこれを図らねばそれは得られない。そこで意図的にこれを図るために,(3)生活環境的条件いいかえれば施設体系性を想定し,共同でそれを創り,育てていくことが必要になるし,今日のような開かれた社会においては,最終的にはコミュニティは構成員の心の中にある。つまり,(4)成員の共属の感情,共通の認識,そして共同の行動がとれるだけの合意といった条件,すなわち態度性の中にある。
日本でコミュニティが行政にとりあげられて一般化するきっかけとなったのは,自治省によるモデル・コミュニティの設定以来である。すなわち1971年から3ヵ年の時限政策で,自治次官通達を出してモデル・コミュニティ対策要綱を示し,全国83ヵ所に設定を行った。この中には,東京都武蔵野市中央西地区,埼玉県蕨市中央地区と南地区,神戸市長田区丸山地区などがある。これに刺激されて,県単独でモデル・コミュニティ指定や,市町村や特別区で独自のコミュニティ指定を行った。このほか各省庁のコミュニティ類似の地区指定などがあり,しだいに一般的となった。
コミュニティは,まず範域の設定からはじまる。最近のように開かれた社会においては,個人の周囲にいくらでも同心円風にコミュニティを設定しうるが,ここで地方自治体なかんずく市町村や特別区の政策との関連でコミュニティを設定する場合に,その戦略的ポイントとして小学校区(通学区としての)程度を想定するのが慣習となっている。
次に,コミュニティ施設の計画である。コミュニティ施設の多くは公共施設として整備するものであるが,単なる地域施設ではなく,コミュニティ施設であるからには次のような条件が必要である。(1)住民のコミュニティ意識を強め,求心化させる目的で作る施設であること,(2)多様な年齢層,多岐にわたる職業の人々が利用できる多目的利用施設であること,(3)とくに日常定住性の高い住民,高齢者,幼児,児童,主婦,自営業者などを対象にした施設で,それらの住民を安全にかつ気軽に誘致できるように配置されたものであること,(4)それを利用するにあたって,特定の会員だけが使用するとか,特定の層の人々だけが利用するものでないこと,(5)その施設の配置から設計に至るまで,住民の意思を反映させる形で作ること,(6)その運用はもとより管理に至るまで,住民が責任を持った施設であること,などである。いずれにしろ,住民参加と住民による管理責任ということが重要である。コミュニティ・センターがその代表的なものである。
第3が,コミュニティにおける住民参加の方法である。施設の計画と事業への参加,管理面での責任の取り方に住民参加が求められるが,そのための導入としては,自らの周囲の生活環境の点検からはじめ,問題の分析,計画化の方向がとられるとよい。点検にあたっては,処方箋を記すコミュニティ・カルテの方式をとるか,症状を記すコミュニティ図集の方式を採用するかのどちらかである。
最後にコミュニティ活動であるが,要はいかにして住民をコミュニティ活動に〈巻き込む〉(コミュニティ・インボルブメント)かである。〈巻き込む〉には二つの意味があって,一つは始動集団の活動にだんだん巻き込むことである。いま一つは,人々の正義感や善意を徐々に蓄えていって,住民の心の中にコミュニティ意識を取り込ませることである。いずれにしろ,はじめから全戸網羅主義の組織を作ればいいのではない。コミュニティ作りは,あせらないことが肝要である。
執筆者:松原 治郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
近年、日本で急速に普及したこの英語からの外来語は、本来意味の混乱を招きがちなことばである。以下、〔1〕英語の一般的日常語、〔2〕学術語、〔3〕日本に広まった外来語という三つの場合に分けて解説する。それは、このそれぞれが互いに無関係ではないとしても、いちおう切り離して考えるほうが理解の整理に役だつと思うからである。またこの3区分と交差する別の区分として、記述的用法と規範的用法のあることも、あらかじめ指摘しておく。前者は現存するものをさし、後者は現存しないとしてもそれへの到達が規範として求められる理想像を意味する場合である。
[中村八朗]
英語における一般語としてのコミュニティは、かなり多様な意味に用いられている。「(財産、権利、趣味、思想などの)共有、一致」「社会的交わり」といったある状態をさす一方では、このような状態にある人々の集まりを意味する場合がある。しかしこの場合も、「平等の地位にある人々」「一国を形成する人々」「一地方、一地域の人々」「特定教徒、特定人種居住地域の人々」「ある地域で共産生活を営む人々」などの異なった意味となり、さらに、動植物の集まりの意味としても用いられる。またこれらは記述的用法に属するが、規範的用法の例としては、アメリカの黒人運動指導者故キング牧師の遺著『混沌(こんとん)かコミュニティか』Chaos or Communityがあげられる。ここでのコミュニティでは、人種差別や醜い紛争の充満する現在の混沌状況を克服し、新たにつくりだすべき人類の理想的共同生活が考えられている。
[中村八朗]
コミュニティは社会学の重要な用語であるが、学術語である以上は多様な意味付与を許すような使用、あるいは価値評価を含む規範的用法は客観的厳密性に欠けるところから、当然認められないことになる。したがって、コミュニティを論じる個々の研究者はあらかじめ明確な定義を与えている。しかし一般語の多義性が災いして、研究者によって定義に相違が伴い、ある調べでは、異なる定義の数は94に達していた。とはいえ、それらの原型とも目される定義が考えられないわけではなく、それは、(1)一定地域内の人々であり、(2)彼らの生活はこの地域内で完結し、(3)その関心や利害が共通するところから一体感が抱かれ、生活様式にも一致した特徴が認められ、(4)以上の属性が自然発生的に生成し相互に関連しあって一つの社会的実体を構成する、という場合をコミュニティと規定するものである。一般語の多様な意味のいくつかが取り出され、そのうちでは地域との関連性をもつ意味が中心に置かれているが、これについては地域の範囲が一つの問題となる。コミュニティの古典的理論を展開したアメリカの社会学者マッキーバーは、近隣から一国またはそれ以上の範囲まで、さまざまの場合があるとしてこの点には深入りせず、むしろ自然発生的なこのコミュニティと、それから派生したアソシエーション(結社)、すなわち個々の特定関心ごとにその充足のために人為的に形成された組織との対比に重点を置いた。しかし後の動向では、市町村や大都市の一部地域を範囲にとり、実態調査を通じてその社会生活の諸側面を分析する研究が主流となり、これはコミュニティ・スタディとして今日の社会学でも重要な研究分野となっている。
ところで原型の概念規定を再検討する場合、(2)を厳密に満たすには、まったくの未開社会は別として、現代社会では一国をはるかに越える範囲にまで地域を拡大させねばならず、反面(3)については、思考、行動の多様化を考慮すれば、近隣の範囲でも過大となる。この矛盾から現代への適用を求めて定義の修正も一方では進められており、たとえば(3)に焦点を絞り、居住の地理的近接性がないとしても、利害や関心の一致する同一職業の人々をコミュニティと規定するような動きが現れており、ほかにもいくつかの修正が試みられている。
[中村八朗]
日本での外来語としてのコミュニティは、経済成長が都市の生活環境や人間関係の荒廃を招いたとする認識の広まった1970年(昭和45)ごろ、その克服策として官民の指導的部門が一斉にコミュニティの創設を提唱してから一躍脚光を浴びることとなった。説かれている内容は、小学校区程度の近隣の範囲ごとに、内部の住民の間に樹立されるべき市民的連帯性、つまり自主性や個性の確立を伴った連帯性と必要関連施設の整備であり、当然、規範的用法に属する意味が与えられていることになる。
この提唱に呼応して多くの自治体がコミュニティ政策に取り組んでいる。しかしこの場合も意味の多義性が影響し、その理解が個々に異なるところから、具体的政策にもかなりの相違が現れている。また市民的連帯というとき、延長として町内会の否定が意図されていたが、実際にはこの政策の推進にあたり町内会に大幅に依存している場合も少なくない。
[中村八朗]
『中村八朗著『都市コミュニティの社会学』(1973・有斐閣)』▽『松原治郎著『コミュニティの社会学』(1978・東京大学出版会)』▽『R. M. MacIver ed.Community (1917, Macmillan, London)』
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…しかしなかでも,送り手と受け手の間に教養,体験,関心などの違いでコードにずれがあったり(世代間ギャップや異文化接触など),憎悪や不信があったり(信頼度credibilityギャップ)すると,それが障壁barrierとなり,コミュニケーションの成立を阻害する。
【コミュニケーションの変質】
近代以前の人間は,風俗習慣,言語,宗教,思想,道徳などの領域にそれぞれ絶対優勢コードのある狭い生活環境(コミュニティcommunity,ドイツ語でゲマインシャフトGemeinschaft)の中で生活していた。身分や性や年齢などの違いで併存競合コードはいつもあったが,反対抵抗コードは異端,一揆,侵略などの形でごくまれに一時的,部分的に生じたにすぎない。…
…市町村などの地域社会を基盤とする,スポーツを通じて生まれたある一定の地域的広がりと,同志感情によって支えられるスポーツの存在形態の総称と考えてよい。日本において〈コミュニティ・スポーツ〉という言葉が強調されはじめたのは,都市化の進展や大衆社会化現象などにより地域社会の崩壊が顕著となった昭和40年代の中ごろからである。それまでのスポーツは,学校や職場を中心に行われる傾向が強かった。…
※「コミュニティ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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