改訂新版 世界大百科事典 「アフロアメリカ文化」の意味・わかりやすい解説
アフロ・アメリカ文化 (アフロアメリカぶんか)
アフロ・アメリカ文化はラテン・アメリカの黒人系の人びとをおもな担い手とし,しばしば〈混合文化〉であるといわれる。それは,主として北東ブラジル,ギアナ地域,カリブ海地域にみられるアフロ・アメリカ社会が〈混血社会〉であることの反映である。つまりここでは人種間の混血現象が北アメリカと異なって日常茶飯事であり,たとえば白人と黒人との混血によってムラート,マメルコ,またインディオと黒人との混血によってサンボ,マルーンなどの混血人種が生まれている。そして文化面でも,スペインやポルトガルの文化とアフリカの文化との交流,接触,混合によって,西欧的でもなくアフリカ的でもない,新しい異質の文化が形成されることになったのである。そのいくつかの例として,言語,宗教,音楽,舞踊などが挙げられるが,この項目では主として言語と宗教にみられる〈混合文化〉に言及することにする。音楽については〈ラテン・アメリカ音楽〉の項を参照。
言語
アフロ・アメリカではスペイン,ポルトガル,オランダ,イギリス,フランスなどの植民列強の進出にともない,その母国語と黒人奴隷がもたらした西アフリカ部族語との混合が何世紀かにわたって行われ,その結果,現在クレオール,パピアメント,ニャニギスモなどと呼ばれるいくつかの混合言語が生まれている。クレオール語はハイチ,マルティニク,グアドループなどで話される,フランス語とアフリカ語との混合言語である。また英語圏カリブ海域で話される言語も,一般にクレオール・イングリッシュと呼ばれている。オランダ領カリブ海域で使用されている言語は,英語,スペイン語,オランダ語などの多混合言語で,それはパピアメントといわれている。そしてキューバの一部で話されているニャニギスモは,スペイン語とヨルバ語の混合したものである。
宗教
一般にアフロ・アメリカの宗教という場合に挙げられるのは,ハイチのブードゥー,ブラジルのマクンバ(ウンバンダ),キューバのサンテリーアなどであるが,そのいずれもが西アフリカのフォン族やヨルバ族に起源を持つ原始宗教とカトリックとの混交宗教である。スペインやポルトガルの植民当局が植民政策の一つとして原住民インディオや黒人奴隷にカトリックへの改宗を強制したことはよく知られている。一方,カトリックを押しつけられたインディオや黒人たち,とくに黒人は表面的にはカトリックへの改宗をよそおいながら,その裏では彼らの故郷の宗教を信仰しつづけてきた。そのための方法として,彼らの最高神オバタラをキリストに見たてたり,聖人サンタ・バルバラ(軍神)をシャンゴ(あるいはチャンゴ)と同一視したりしながら,宗教の混交化を進めることによって,自分たちの宗教を守ってきたのである。
執筆者:神代 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報