改訂新版 世界大百科事典 「アルプスヒマラヤ地帯」の意味・わかりやすい解説
アルプス・ヒマラヤ地帯 (アルプスヒマラヤちたい)
Alps-Himalaya belt
アルプス山脈付近から西アジアを経て,ヒマラヤ,インドネシアに続く地球上最大の山脈系の一つ。その西端はスペイン・フランス国境のピレネー山脈や北アフリカのアトラス山脈で,これからアペニノ山脈,アルプス山脈,カルパチ山脈,ディナル・アルプス山脈,小アジア半島,カフカス山脈,ザーグロス山脈,ヒンドゥークシュ山脈と続いて,ヒマラヤ山脈に至る。さらにヒマラヤ山脈より東はミャンマー,タイの山地を経てマレー半島,スンダ列島に続く。ヒマラヤ山脈の北に続くチベット高原やパミール高原などは,ふつうはこの地帯から除外されるが,これらの高原は成因的には山脈の形成と関連していると考えられている。
これらの山脈は,よく連続した山脈系であり,いずれも第三紀中ごろ以後に隆起して山地となっているなどの著しい共通性がある。たとえばアルプス山脈では,中・古生界の海成層とその変成岩類,これらを貫く花コウ岩類などが,著しく褶曲して折りたたまれたようになったデッケン構造Deckenstrukturをつくっている。褶曲した地層のうちもっとも若いものは古第三系で,新第三系は山脈の周辺に厚い陸成のレキ岩などとして分布する。これは褶曲が古第三紀末ごろから形成され,新第三紀には山地となって浸食を受けていたことを示す。このような形成史はヒマラヤ山脈でも同様で,古第三系以下の地層群がアルプスより大規模なデッケン構造をつくっている。現在のアルプス・ヒマラヤ地帯は,古生代以後古第三紀に至るまで,北半球のローラシア大陸と南半球のゴンドワナ大陸との間に,東から西へくさび状に入りこんだテチス海と呼ばれる広い海域であった。中生代以降にゴンドワナ大陸の分裂が始まり,その破片であるアフリカ,インド半島,オーストラリアなどの各大陸が北に移動を始めた。このためテチス海に堆積した地層群がこれらの大陸片とローラシア大陸との間に押し縮められて褶曲し,山脈を形成したものだと考えられる。ことにヒマラヤでは,インド半島を含むインド洋の地殻・上部マントル(インド洋プレート)が,アジア大陸の下に大規模にもぐりこみ,このためヒマラヤからチベット高原にわたる広大な隆起域が形成されていると考えられている。アルプス・ヒマラヤ地帯が出現したため,古第三紀までここに存在したテチス海は消滅し,そのなごりとして,新第三紀以後には小アジア半島からヒマラヤ山脈に至る地域の北側に黒海,カスピ海,アラル海などの内陸海が残り,西側では地中海が残っている。
執筆者:鎮西 清高
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報