中央アジア南東部の山脈群と高原からなる地域。タジキスタン共和国、中国新疆(しんきょう)ウイグル自治区、パキスタン北部、アフガニスタン北部にまたがる。天山山脈、崑崙(こんろん)山脈、カラコルム山脈、ヒンドゥー・クシ山脈などの大山脈の会合部にあり、平均標高は5000メートルに近い。
パミール高原は、地理・地形の面から三地域に大別できる。〔1〕東部のカシュガル・パミールは全域が中国に属し、最高地点はコングル山(7719メートル)。山脈は北西―南南東に弧を描いており、開析が進んだ起伏の大きな地形を示している。山頂部には氷河が発達し、雪線高度は約5200メートル。気候は寒冷で乾燥しており、植生は貧しい。〔2〕中部パミール(または狭義のパミール)は、新生代以後の隆起量がパミールのなかではもっとも大きい地域で、山頂部や谷筋に沿っては、平坦(へいたん)面あるいは小起伏面が残されている。〔3〕北西部はザマライスキー山脈(またはトランス・アライ山脈)、ピョートル1世山脈、アカデミー・ナウク山脈などからなり、最高地点はコムニズム峰(7495メートル)。標高4000メートル付近で年降水量は約1000ミリとなるが、谷底は乾燥している。植生の垂直変化は著しい。西に開けた河谷では、サクサウール(アカザ科)やヨモギの生えた半砂漠、川岸や扇状地にはヤナギ、カンバ類の小林がみられる。2600メートルではステップ(短草草原)、3800メートルではお花畑、4400メートルで雪線となる。氷河はタジキスタン領内で1085条ある。
パミール高原の地質は、東部~北西部はヘルシニア系を主体とした堆積(たいせき)岩、片麻(へんま)岩、貫入岩類などが、中部は古生代から中生代にかけての海成層が分布し、ヘルシニア造山運動、アルプス造山運動などによって複雑な褶曲(しゅうきょく)構造をなしている。またこの地域では、山脈の内部構造を形成した前記造山運動とは別に、新生代新第三紀から始まった現在の山脈の起伏を形成した地殻変動が続いており、パミール周辺は世界有数の地震多発地帯となっている。
動物は、ヒツジ、レイヨウ、オオカミ、小形の齧歯(げっし)類、ミヤマガラス、ハゲタカ類など。西部にはヒグマ、ヒョウなどもいる。
パミール高原は、古代から中央アジアの陸上交易ルート(いわゆるシルク・ロード)の最大の難所の一つで、現在でも地元の少数民族間での国境を越えた交易が続いている。
[津沢正晴]
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中央アジア南東部の多数の山脈からなる高地。大半はタジキスタン領で,北端がキルギスタン領,東端が中国領,南端はアフガニスタン領。中国語の表記は帕米爾。東部では山脈はほぼ南北に走り,広い谷や高原がみられ,最高峰は中国カシュガル(喀什噶爾)山脈のコングル(公格爾山,7719m)。中国タリム盆地のカシュガル川などの水源がある。西部はほぼ東西に走る早壮年期の諸山脈で,科学アカデミー,ピョートル1世両山脈の交点に旧ソ連最高のコムニズム峰(7495m),ザアライスキー山脈にレーニン峰(7134m)がある。山間の河川はアム・ダリヤ上流のピャンジ川に集まる。雪線は東部で5200m,西部で4400m,西部には全長71.2kmのフェドチェンコ氷河など多くの氷河がある。東部は乾燥寒冷,西部はやや湿潤温暖で,西部では植生の垂直変化が著しい。また,この地は現在も隆起が続く世界有数の地震帯である。古く紀元前2世紀後半の張騫(ちようけん)の遠征以来,中国では〈葱嶺(そうれい)〉の名で知られ,高原越えの数本のルートは東西交易・文化交流に大きな役割を果たした。
執筆者:小野 菊雄
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