日本大百科全書(ニッポニカ) 「イエカ」の意味・わかりやすい解説
イエカ
いえか / 家蚊
[学] Culex spp.
昆虫綱双翅(そうし)目糸角亜目カ科イエカ属の種類の総称。世界中に600種以上生息し、人畜の吸血者としても伝染病媒介者としても重要な種を多く含む。成虫は静止時に体を水平にして止まる。幼虫は水中生活をするいわゆるボウフラで、呼吸管が細長く、これを水面に出して呼吸をし、頭部は普通水面下に沈めている。
[倉橋 弘]
日本産の重要種
トラフカクイカCulex (Lutzia) halifaxiiは、人畜の吸血性はないが、幼虫がアカイエカ、ヤブカ、ユスリカなどの幼虫を捕食するので益虫である。害虫として重要なものは、ほとんどイエカ亜属に含まれる。
コガタアカイエカC. (Culex) tritaeniorhynchusは、体長3~4ミリメートルの小形種で、体色は茶褐色。吻(ふん)のほぼ中央部には体長の約4分の1の長さの黄白色部がある。日本各地および東南アジア、中央アジア、北アメリカに分布する。成虫は4月ごろから出現し、7~8月が最盛期となり、成虫で越冬する。夜間活動する吸血性のカで、ヒトのほかブタ、ウシなどを好んで吸血する。卵は水面に固めて産み付けられる。卵数は250個ぐらいで、卵期は2日。幼虫期は栄養や水温によって異なるが、28℃で8~10日。蛹(よう)期は1.5日。幼虫の発生源は水田、池沼、水槽などである。このカは、日本脳炎ウイルスを媒介する衛生害虫である。媒介の経路は、ブタなどを吸血した際にウイルスを得て、ヒトを刺したときに移す。
アカイエカC. (Culex) pipiens pallensは、家屋に侵入してヒトを吸血する日本でもっとも普通の種である。体長3~5ミリメートルの中形で、体は赤褐色を帯び、吻に黄白色帯がない。アカイエカはいくつかの亜種もしくは生態品種に分けられるが、本亜種はアジアの温帯地域に分布し、下水、漬物桶(おけ)、肥溜(こえだめ)跡、空き缶、ごみ処理場のくぼみなどの汚水に発生し、5~10月ごろまでみられる。夜間に活動する吸血性のカで、ヒトのほかに家畜、家禽(かきん)などからも吸血する。
ネッタイイエカC. (Culex) pipiens quinquefasciatus(=C. pipiens fatigans)は、世界中の熱帯、亜熱帯に広く分布し、日本では小笠原(おがさわら)諸島、南西諸島に生息する別亜種である。フィラリア症の病原虫であるバンクロフト糸状虫を伝播(でんぱ)する重要なカである。成虫は休眠することなく一年中みられ、幼虫はアカイエカと同じように汚水域に発生する。
チカイエカC. (Culex) pipiens molestusは形態がアカイエカとほとんど区別ができないほど似ているが、生態的にはきわめて特徴があり生態品種の一種とも考えられる。成虫は無吸血でも産卵が可能で、休眠を行わず、冬期も吸血活動をする。いわゆる都市昆虫で、ビルの地下室の水たまり、浄化槽、地下鉄の構内に発生しヒトに対して吸血性嗜好(しこう)が強く、日本の都市での被害は年々増加している。世界中の温帯地域の都市に広く分布する。
[倉橋 弘]