[1] 〘係助〙
[一] 文中にあって「係り」となり、
文末の活用語を連体形で結ぶ。
① 連用語を受け、疑問あるいは反語の意を表わす。
※古事記(712)中・
歌謡「新治
(にひばり) 筑波を過ぎて 幾夜
加(カ)寝つる」
※竹取(9C末‐10C初)「なでう物をかなげき侍るべき」
② 「已然形(+ば)」「
形容詞語幹+み」「未然形+ば」等、条件文を構成する種々の形式を受けて疑問の意を表わす。上代では「ば」を伴わない已然形を直接受けるものが圧倒的に多いが、中古以後は常に「ば」を伴う。
※古事記(712)中・歌謡「この御酒を 醸みけむ人は その鼓 臼に立てて 歌ひつつ 醸みけれ加(カ)も 舞ひつつ 醸みけれ加(カ)も」
※
万葉(8C後)六・九四七「須磨の海人の塩焼き衣の馴れなば
香(か)一日も君を忘れて思はむ」
[二] 文末用法。
① 体言または活用語の連体形を受け、疑問あるいは反語の意を表わす。口語では
終助詞とする。
※続日本紀‐神亀元年(724)二月
四日・宣命「みまし親王の齢の弱
(わか)きに荷重きは堪へじ
加(カ)と念ほし坐
(ま)して」
※
源氏(1001‐14頃)柏木「かしは木に葉守りの神はまさずとも人ならすべき宿のこずゑ
か」
② 已然形を受けて反語の意を表わす。「万葉」の東歌のみに見られる。
※万葉(8C後)一四・三五五九「大船を舳(へ)ゆも艫(とも)ゆも堅めてし許曾の里人顕さめ可(カ)も」
③ 「ぬか」「ぬかも」の形で用いられ、願望の意を表わす。上に助詞「も」のあることが多い。→
補注(1)。
※常陸風土記(717‐724頃)信太・歌謡「筑波嶺に 廬(いほ)りて 妻なしに わが寝む夜ろは 早も明けぬ賀(カ)も」
④ 形式名詞を受け、反語の意をもって下に続く。この「か」、あるいは上の形式名詞をも含めて接続助詞とする説もある。中世以後の用法。
※中華若木詩抄(1520頃)中「春の帰るのみか。此の間相馴し。少年も春とともに帰るぞ」
[2] 〘副助〙
① (疑問の意を表わす係助詞の用法(一)(一)①から転じて)
(イ) 不定の意を表わす。
※中華若木詩抄(1520頃)中「若か故人の来りもやせんと思て」
※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)下「御用にたてばわたくしも、なんぼうか嬉しいもの」
(ロ) 対等の関係に立つ語を受けて、選択の意を表わす。橋本文法では並立助詞とする。
※史記抄(1477)九「其人が死するかうするかすればやむるぞ」
※浄瑠璃・博多小女郎波枕(1718)中「けふかあすは戻られふ」
※浅草(1931)〈サトウハチロー〉留置場の幽霊「僕はその女のところへ行った。一円二十銭かなかった女はそれでも、とめてくれた」
[3] 〘終助〙
① 文末において体言または活用語の連体形を受け、詠嘆を表わす。古代では、文中の「も」と相応ずることが多い。
※古事記(712)上・歌謡「庭つ鳥 鶏は鳴く うれたくも 鳴くなる鳥加(カ)」
※源氏(1001‐14頃)宿木「君がため折れるかざしは紫の雲に劣らぬ花のけしきか」
② 文末の連体形、または述語に用いられた体言を受け、疑問の意を表わす。近世以後の用法。→補注(2)。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「湯はいくらだ。十文か」
③ 文末において打消の語を受け、願い、誘い、同意を求める気持などを表わす。近世以後の用法。文語の「ぬか」の系統をひくもの。→(一)(二)③。
※洒落本・婦美車紫

(1774)高輪茶屋の段「吉原はまだできず、いっそ今から品川へおいでなされません
か」
④ 人名の下に付いて、呼びかけの意を表わす。江戸時代の上流語。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「彌寿か(常のことばなら、彌寿やとよぶ所なれども、此よめはいまだおやしきの詞うせぬゆゑ、やすか彌寿かと、かの声によぶなり)」
[補注](1)(一)(二)③の用法は、否定的な疑問の形によって相手に問いかけながら、相反する肯定的結果を期待し希望している点において、反語用法であるといえる。
(2)(三)②の用法は近世以前にもあるが、中世までは文中にあって疑問文を構成する係助詞の用法が存するので、文末疑問表現の場合も、係助詞の文末用法として扱う。→(一)(二)①