精選版 日本国語大辞典 「日本脳炎」の意味・読み・例文・類語
にほん‐のうえん ‥ナウエン【日本脳炎】
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日本脳炎ウイルスによる急性感染症で、感染症予防・医療法(感染症法)では5類感染症に分類されている。かつては同じ流行性脳炎の嗜眠(しみん)性脳炎との異同からB型脳炎とか夏季脳炎などといろいろな名称でよばれていた。1948年(昭和23)から67年までは年間発生数が1000例以上、50年には5000例を超える発生もあったが、予防接種などの効果が現れて72年以来100例以下となり、92年(平成4)以降は一桁(けた)まで減少した。多発時には北海道を除く各地で流行し、小児と60歳以上に好発したが、1992年以降は発生地も九州、中国、四国地方を中心とする西日本地区に限局され、また、患者もほとんど高齢者に限られている。
なお、日本脳炎という名称は、この病気が日本にだけあるという意味ではない。日本で最初に認識され、病原、疫学、臨床なども日本でもっともよく研究されたからという意味で命名されたものである。日本脳炎は、韓国、台湾、中国本土、タイ、ミャンマー、インド、さらにマリアナ諸島、フィリピン、スンダ列島に至る西南太平洋地域にも存在し、流行がみられる。
[柳下徳雄]
急に38~39℃の発熱がおこり、かなり強い頭痛のほか、悪心(おしん)や嘔吐(おうと)を伴う。年少者では腹痛や下痢などの胃腸症状もおこることがまれでない。最初は夏かぜや寝冷えによく似ているが、熱はさらに40℃前後に達し、興奮、意識混濁、顔面や手足のけいれんがときどきおこったりして脳炎らしい症状が現れてくる。発病後4~7日が病気の峠で、この時期を過ぎれば熱もしだいに下がって回復に向かうが、肺炎や心筋炎などの合併症をおこすことがある。また、後遺症が高率に現れ、数週から数か月にわたって音声が低く単調になったり、健忘がみられ性格が変調したりするが、重症では手足の強直性麻痺(まひ)が一生残り、性格異常や認知症などの精神障害もおこる。一般に幼小児の後遺症は治りにくく、成人の場合は最初かなり重症でも半年くらいで回復することが多い。
[柳下徳雄]
初期は各種の髄膜炎、脳出血、感冒などと誤診されやすい。症状が強く現れたときは臨床症状と髄液の検査でほぼ診断されるが、確実な診断、とくに他のウイルス性脳炎との鑑別や軽症あるいは不顕性感染であった場合の診断は、血清反応(補体結合反応および赤血球凝集抑制反応)によらなければならない。しかし、この反応は発病後10日以上経過してからでないと現れてこない難点がある。
[柳下徳雄]
原因療法はなく、対症療法のほか、合併症の予防や後遺症の治療など一般的看護に重点が置かれる。ICU(集中治療室)の活用によって救命しうるようになり、後遺症のリハビリテーションも回復期の早期から実施されるようになったが、幼小児の後遺症の回復は困難である。
[柳下徳雄]
乳幼児と高齢者の予後が悪く、また発熱が41℃以上になった場合も悪い。一般的には発病者の約20%が死亡、約20%には重い後遺症がみられ、完全に治癒するのは50~60%である。
[柳下徳雄]
病原ウイルスをもったカ(多くはコガタアカイエカ)に刺されることによって感染し、ヒトからヒトへの感染はない。したがって、日本脳炎はカの発生に関連して7~10月に流行し、ほかの季節にはみられず、流行地域も限定されてくる。また、大部分の人は不顕性感染で、なにも病感がおこらず、流行によって差もあるが、普通10万人について数人が発病するにすぎない。
なお、日本脳炎は家畜伝染病でもあり、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギなど大形の哺乳(ほにゅう)類にも流行するが、やはり不顕性感染が大部分で、発病率はヒトとウマがもっとも高い。
[柳下徳雄]
1965年(昭和40)から厚生省(現厚生労働省)では日本脳炎の流行予測を行っているが、これは、日本脳炎がブタやウマの間に流行してから3~5週後にヒトに流行がおこるという事実に基づいて実施されている。毎年5月から10月にかけて各都道府県ごとに、1~3か所の食肉処理場から生後5~8か月のブタ、すなわち前年の日本脳炎の流行に関係のないブタ20頭の血液を毎週集めて日本脳炎に対する抗体の有無を調べる。抗体保有率が50%以上になればブタに日本脳炎の流行がおこったことがわかり、したがって2~3週後にはヒトにも患者発生が到来する可能性があるものとみて、流行予測(流行地指定)が公表され、臨時予防接種の実施が検討される。
[柳下徳雄]
過労や睡眠不足を避け、カを駆除するほか、定期予防接種がある。予防接種法による第Ⅰ期定期接種は、初回免疫をつくるために1~4週間隔で2回日本脳炎ワクチンを皮下注射し、その後約1年を経過した時期に1回皮下注射して追加免疫する。第Ⅱ期定期接種は9~13歳未満に1回皮下注射、第Ⅲ期定期接種は14~15歳に1回皮下注射する。ただし、流行のない北海道と東北の一部の地域では行わない所もある。
[柳下徳雄]
日本脳炎の病原体で、1934年(昭和9)に林道倫(みちとも)(1885―1973)が脳内接種法によって初めてサルに伝播(でんぱ)させ、36年には谷口・笠原(かさはら)らがマウスを使ってウイルスの分離に成功した。アルボウイルスのB群(現在の分類法ではフラビウイルス科フラビウイルス属)に属するRNAウイルスで、セントルイス脳炎や西ナイル脳炎のウイルスと類似するが、病毒の中和試験によって区別される。
なお、日本脳炎ウイルスはカに媒介されてヒトや家畜に感染をおこすが、カのいない冬季をどのようにして越年し翌年ふたたび流行をおこすのか、これがわかれば予防できるわけであるが、まだ不明である。温帯地方では冬眠したカの体内で越年する可能性もあるが、まだ実証されず、カを食べるトカゲやヤモリの体内で越年する可能性や巣立ちのできない野鳥とくにサギ類の体内に保有されるという考えなどもある。また、西南太平洋一帯に分布することから渡り鳥に注目する者もある。なお、感染したウマやブタはその年のウイルスを成育させることはあっても、ウイルスの保有者ではないとされている。
[柳下徳雄]
発熱、頭痛、意識障害、けいれん、
日本脳炎ウイルスに感染したブタの血を吸った蚊(コガタアカイエカ)に刺されて感染します。潜伏期間は1週間前後です。
頭痛、全身
脳波は特徴的で、前頭部にとくにはっきりとした高振幅
ウイルスを抑える薬はありませんので、脳の水を引かせたり、けいれんを抑えたり、脳の酸素消費を抑えたりする薬で治療します。
発熱性の疾患ではどの疾患も同じことですが、高熱だけでは心配することはありません。けいれんも多くの場合には2~3分以内に治まる熱性けいれんなので、体を横にして楽な姿勢をとらせて様子をみます。嘔吐があると
けいれんが治まっても呼吸が不規則だったり、顔色が悪いままだったり、あるいはけいれんが10分以上続いたり、何度も繰り返す時にはすぐに小児科医のいる、入院施設のある病院を受診してください。内科医や外来診療だけの病院に行くのは時間の無駄ですし、手遅れになる場合もあります。
日本では日本脳炎が子どもに発病することはほとんどなく、予防接種の必要性を否定する向きもあります。しかし、北海道以外の地域では毎年夏になると日本脳炎汚染ブタが多数出ているので、定期接種を忘れないようにします。改良ワクチンが開発されています。
脇口 宏
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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(2012-10-21)
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…脳実質の炎症による神経疾患で,病原体の脳実質への直接の影響によるもの,各種感染症に続発したり予防接種後などにおこるアレルギー性機序の考えられるものがある。(1)病原体が脳実質を直接侵すことによる脳炎 日本脳炎,エコノモ脳炎,単純ヘルペス脳炎などをはじめ病原体はほとんどがウイルスである。症状は発熱,頭痛,吐き気,嘔吐などで始まり,意識障害や精神症状を呈するようになる。…
※「日本脳炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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