改訂新版 世界大百科事典 「イチモンジセセリ」の意味・わかりやすい解説
イチモンジセセリ
Parnara guttata
初秋のころ草原や耕作地,住宅地などにもふつうに見られる鱗翅目セセリチョウ科の昆虫。中型のセセリチョウで,開張3~4cm。翅の地色は表面は暗褐色,裏面は黄褐色で,後翅の4個の白色斑が1列に並ぶので一文字の名がある。イネの害虫として有名で,水田に大発生することがある。本種の生息地は人工的な自然と強く結びつき,原生林などの原始的な自然には個体数が少ない。幼虫はイネツトムシ,またはハマクリムシなどと呼ばれ,孵化(ふか)した直後は葉を裏側から筒状に巻いて巣をつくるが,十分に成長すると2,3枚の葉を集めてより大きな巣をつくってその中に潜み,そこから出かけて周囲の葉を食べる。幼虫は巣の中でさなぎとなる。幼虫はイネのほか,イネ科のイヌムギ,クサヨシ,エノコログサ,ススキ,アシボソ,チガヤ,ジュズダマ,イヌビエなどや,カヤツリグサ科のシラスゲなども食べる。幼虫の状態で越冬するが,幼虫は寒さに弱く,本州中部以北の寒冷地では越冬できない。5月下旬ころ最初の世代が羽化し,9月ころまで3回程度の発生を繰り返す。もっとも個体数が増えるのは晩夏から初秋にかけて羽化する第3回目の成虫で,この時期には群れをなして長距離を移動する習性がある。このチョウの本来の生息地は熱帯地方の湿地帯と推定されるが,稲作地帯の拡大が本種の生活圏を北上させたとみることもできる。
近縁種では,ヒメイチモンジセセリParnara nasoはやや小型で南西諸島以南に分布し,オガサワラセセリParnara ogasawarensisは小笠原諸島の特産種である。チャバネセセリ属では,チャバネセセリPelopidas mathiasが水田にも発生するが,後翅表面の白色斑を欠く。山地に見られるミヤマチャバネセセリPelopidas jansonisでは後翅表面の白色斑は1個のみである。八重山諸島以南に分布するトガリチャバネセセリPelopidas agnaは前翅の白色斑配列がチャバネセセリと異なる。オオチャバネセセリ属のオオチャバネセセリPolytremis pellucidaは外見上本種に似るが,後翅の4個の白色斑は1直線状に並ばない。
執筆者:高橋 真弓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報