エノコログサ(その他表記)(green)foxtailgrass
Setaria viridis(L.)P.Beauv.

改訂新版 世界大百科事典 「エノコログサ」の意味・わかりやすい解説

エノコログサ
(green)foxtailgrass
Setaria viridis(L.)P.Beauv.

道端畑地荒地などに普通に見られるイネ科雑草で,関東地方ではネコジャラシという名で親しまれている。エノコログサは狗(え)(犬)の子草の意味で,長い毛(刺針)の生えた犬の尾状の花序に由来し,そのような花序に猫がよくじゃれるのでネコジャラシという。一年草で,細い茎は基部節で折れ曲がり,枝分れしながら立ち上がり,50~80cmに達する。葉は狭い披針形で軟らかく,長さ20cmくらい,幅10mm内外で,基部は長い鞘(さや)となる。夏から秋に枝や茎の先に,円柱形で長さ3~6cmの穂を出し,緑色小穂を密生し,各小穂は数本の長い刺針(枝の退化したもの)に包まれるため,花序は毛の生えた尾の形になる。小穂自体は球形で長さ2mm弱である。ユーラシア大陸の植物で,北アメリカやアフリカにも帰化している。日本全土にみられるが,生息場所は畑地や路傍など人間の入った所に限られ,本当の日本の野生植物か否かは疑わしい。

 エノコログサは栽培品のアワの祖型とみられており,形態的にはコアワを経てアワへつながっている。オオエノコロS.×pycnocoma Henr.はエノコログサとアワの雑種である。海岸砂丘に生えるエノコログサは穂が短く楕円形となって立ち,刺針が長く密生するハマエノコロS.viridis ssp.pachystachys Nemotoという亜種である。キンエノコロは穂が黄金色に熟し,葉が線形で長い1種であり,それに似て少し小型のコツブキンエノコロS.pallide-fusca Schumach.は第2次大戦後新大陸から帰化した。アキノエノコログサS.faberii Herrm.は第2次大戦中中国から帰化し,穂や小穂が緑であるが,エノコログサよりわずかに大きく穂が9月以後に出る。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エノコログサ」の意味・わかりやすい解説

エノコログサ
えのころぐさ / 犬子草
[学] Setaria viridis (L.) Beauv.

イネ科(APG分類:イネ科)の一年生雑草。一名ネコジャラシ。稈(かん)はまばらに株立ちして高さ20~70センチメートル。葉鞘(ようしょう)の縁(へり)に軟毛がある。8~10月、頂部に長さ2~5センチメートルの円柱形の花序を出し、淡緑色または紫色で中軸に毛がある。小穂は長さ約2ミリメートル。第4穎(えい)は横しわが不明瞭(ふめいりょう)で、微小な点をもち、第2包穎に包まれる。日本全土の荒れ地や畑に普通に生え、アジアに広く分布する。アワの原種とみなされている。名は、花穂が狗(えのこ)(小犬)の尾に似ているためつけられた。海岸に生えて花穂が短いものを変種ハマエノコロという。似た種類に、小穂が3ミリメートルあって第4穎が露出するアキノエノコログサがある。またキンエノコロには葉鞘の縁に毛がなく、第4穎に横しわをもち、小穂は多少大きく、長さ約3ミリメートルである。

[許 建 昌 2019年8月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エノコログサ」の意味・わかりやすい解説

エノコログサ
Setaria viridis; pigeon millet

イネ科の一年草。いたるところの野原,畑地,路傍などに最も普通に生える雑草である。高さ 40~70cmの茎に細い葉を互生し,夏から秋にかけて,茎頂に長さ4~10cmほどの緑色円柱状の花穂をつける。花穂は一方に傾き,小穂を密につけ,その基部には数本の長い毛があり,穂全体がふさふさする。和名は「犬の子草」の意味で,穂の感じが小イヌの尾に似ていることによる。またこの穂にネコがじゃれるので,ネコジャラシの別名で親しまれている。エノコログサの1品種で全体がやや細く,花穂の毛が紫色をしたものをムラサキエノコロ S. viridis form. purpurascensといい,川原や砂地などに多い。キンエノコロ S. lutescensはやはりいたるところに生じる雑草で,エノコログサとは近縁の別種とされる。花穂の毛が黄金色をしている。

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百科事典マイペディア 「エノコログサ」の意味・わかりやすい解説

エノコログサ

ネコジャラシとも。イネ科の一年草。日本全土の路傍,野原などにごく普通に見られる。ユーラシアに広く分布し,アフリカや北米にも帰化している。高さ50〜80cm。葉は披針形または線形。8〜11月,たくさんの剛毛のある,緑色で円柱状の花穂をつける。狗(えのこ)(子イヌ)の尾に似ていることからこの名が出た。アワの祖先型ともいわれ,交雑も容易。

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世界大百科事典(旧版)内のエノコログサの言及

【アワ(粟)】より

…中国ではオオアワは粱で,コアワが粟であるが,日本ではアワ全体に粟の字を用いる。俗にネコジャラシと呼ぶ雑草のエノコログサとアワとは稔性のある雑種ができるので,エノコログサからアワが分化したと考えられている。
[原産,伝播(でんぱ)]
 エノコログサはユーラシアやアメリカ大陸北部に広く分布しているが,作物化されたのは中国を含む東アジア地域と推定されている。…

※「エノコログサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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