ススキ(その他表記)Miscanthus sinensis Anderss.

改訂新版 世界大百科事典 「ススキ」の意味・わかりやすい解説

ススキ (芒/薄)
Miscanthus sinensis Anderss.

尾花の名で秋の七草の一つに数えられるイネ科の多年草。日本全土の日当りのよい山野に普通にみられ,群生することが多く,茎葉が密生して大株となる。茎は高さ1m前後の円柱形で,やや太く,中実で節がある。葉は長さ30~50cmの線形で,幅は6~10mm,先はしだいにとがり,中脈は太く白色で,基部は長い鞘(さや)となり,鞘口に長い毛がある。花序は秋に茎の頂につき,長さ15~30cmの散房状で,短い中軸上に7~多数の枝(総(ふさ))をつけ,各総はその基部から先端まで小穂を密生する。小穂は長柄および短柄の2個が対になり,小穂自体は長さ5mmくらいで黄色く,先端に芒(のぎ)があり,小穂の基盤に長さ7mm内外の白い毛を密生するため,総全体が銀白色の毛に包まれる。変異が多く,小穂の毛が紫色の品種のムラサキススキ,葉に白いすじのあるシマススキや,黄白色の横縞の斑(ふ)が2~3cm間隔にある園芸品種のタカノハススキがある。八丈島や伊豆大島でハチジョウマグサと呼び,牛馬の飼料としている大型の変種はハチジョウススキvar.condensatus (Hackel) Makinoで,伊豆諸島から関東以西,琉球諸島までの海岸に生え,葉の幅が広く,幅2cmほどで,やや白緑色を帯び,花序もススキより大型で密である。ススキはこれらの変種,品種を含めて,日本,朝鮮,中国に分布する。

 ススキは風情のある秋草として日本人に愛好されていて,月見には欠かせないものであるが,往時はカヤと呼んでかやぶき屋根をふいたり,炭俵を編んだりした。生態的には日本の乾いた草原の優占種で,森林を切るとまずススキが生え,ススキ原を焼くとススキが栄える。

 トキワススキM.floridulus (Labill.) Warb.はカンススキ,アリハラススキともいい,大型の花序の中軸がその枝(総)より長く,花序の先端まで及ぶので区別できるし,葉も幅3cmに達し,茎の高さも2mに及ぶ。千葉県以西の海岸,とくに瀬戸内海沿岸に多く,四国,九州,琉球,台湾から太平洋諸島に分布する。また,オギM.sacchariflorus (Maxim.) Benth.は沼沢地に生えるススキ属の1種で,地下に長くはった根茎があり,葉はすべて茎上生で,花序はススキに似るが,小穂には芒がない。日本から中国北部,ウスリー地方に見られる。
執筆者:

十五夜の月見にススキを供える風習は広く見られるが,秋祭に高灯籠の上にススキをしばり,各戸の庭先に立てる所もある。愛媛県の一部では,正月11日の地神祝にススキの穂を1本または月の数だけ束ねて幣束をつけ,田畑に立てて供物をあげる。このススキは保存しておき,水口祭や初田植に田の神の依代(よりしろ)にする。奄美諸島では,8月にシバサシといって,ススキを畑や家にさし,悪魔よけにしている。これらのススキは神の依代や占有を示しており,水戸の鹿島社では新しくススキで屋根をふいて祭りをし,諏訪の御射山(みさやま)祭でも穂屋というススキの仮屋を作る。また,ススキのはし(箸)で半夏生(はんげしよう)にうどんをたべる風習が関東地方を中心に見られ,ニイバシとかアオバシといっている。ススキのはしは骨を拾うのにも使われ,仏のはしだからススキではしを作るなという所もある。このほか,ススキは正月に天気占いや粥占にも使われる。なお,時宗三大法要の一つとして,7月14日払暁に〈薄念仏〉が行われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ススキ」の意味・わかりやすい解説

ススキ
すすき / 薄
Chinese silver grass
[学] Miscanthus sinensis Anderss.

イネ科(APG分類:イネ科)の多年草。花穂を尾花といい、秋の七草の一つ。稈(かん)は株立ちし、高さ1~2メートルに達する。8~10月、稈頂に花序を出す。花序は主軸が詰まって短く、多数の細長い小花序を散房状につける。小穂は披針(ひしん)形で長さ5~7ミリメートル、2小花をもち、同形同大の対(つい)をなして小花序の節につき、小穂の基盤の毛は淡褐色で長さ7~12ミリメートル。小穂が脱落しても花序軸と小穂柄は残る。第2護穎(ごえい)には、長さ8~15ミリメートルの芒(のぎ)がある。平地または山地の日当りのよい地に普通に群生し、北海道から沖縄、および朝鮮半島、中国に分布する。

 集落付近や焼け跡に豊富に自生するため、稈の根元から刈り取って屋根を葺(ふ)く材料とし、古くからカヤ(茅)とよんで利用していた。茅葺き屋根の大部分は、この属の植物の全草を乾かして使用したものである。また、炭俵、草履(ぞうり)、箒(ほうき)、薫物(たきもの)など、いろいろに利用された。斑(ふ)入りのものもある。葉幅が非常に細く糸状になるものをイトススキ、葉に黄斑(おうはん)の入るものをタカノハススキという。また、ナンバンギセルなどを寄生させて、庭先に栽培したり、鉢植えにし観賞用にもする。ハチジョウススキはススキに似るが、海岸に生え、植物体はより大形である。葉幅は3センチメートルに達するが、ざらつきが少なく、牧草として用いられる。伊豆七島ではマグサとよぶ。

[許 建 昌 2019年8月20日]

文化史

ススキは屋根材として有史前から利用されていたと考えられ、『万葉集』にもその情景が歌われている。「秋の野の美草(みくさ)刈りふき宿れりし宇治の京(みやこ)の仮廬(かりいほ)し思ほゆ」(巻1)の美草のような表記のほか、『万葉集』にはススキの名で17首、オバナが19首、カヤが10首みられる。うち5首は庭のススキを詠む。「めづらしき君が家なる花すすき穂に出(い)づる秋の過ぐらく惜しも」(巻8)。ススキの名は、細い意味を表すスを重ねたススに草(キ)がついて成立したと考えられ、オバナは花穂を尾と見立て、カヤはカ(上)屋に由来するとみられている。

 台湾のヤミ族はススキをタロイモ水田に挿し、死者の霊が近づかないように図り、病害虫の退散のまじないや、侵入防止やタブーの標識にも使う。アワは、ススキの矢を投げ入れてから刈り取った。アワの収穫にススキを携える風習は台湾原住民(中国語圏では「先住民」に「今は存在しない」という意味があるため、「原住民」が用いられる)に広くみられる。また、赤ん坊の御守(まも)り、悪夢や病気のお祓(はら)いに使用し、家の新築や開墾にもススキを立てた。中国貴州省のミャオ族はイネの初植えにススキを挿し、6月6日には水田の中央にススキの輪を立て、害虫や冷害、干水害を防ぐ御守りとする。沖縄では「サン」とよぶススキの輪を悪霊や魔除(よ)けにし、「フキ」と称する占有標に使った。十五夜のお月見にススキを飾るのも、本来は病虫害や災害から農作物を守り、豊作を願う農耕儀礼の残存とみられる。

[湯浅浩史 2019年8月20日]

文学

『万葉集』の「萩(はぎ)の花尾花葛(くず)花撫子(なでしこ)の花女郎花(をみなへし)また藤袴朝顔(ふぢばかまあさがほ)の花」(巻8・山上憶良(おくら))の歌から秋の七草の一つに数えられる。『古今集』では秋の代表的な景として、「秋の野の草の袂(たもと)か花薄(すすき)穂に出(い)でて招く袖(そで)と見ゆらむ」(秋上・在原棟梁(ありわらのむねやな))のように、「穂に出づ」「招く」が類型となり、恋歌で思慕の情をあらわに示す意に用いられることも多い。散文にも頻出し、『源氏物語』「宿木」の「枯れ枯れなる前栽(せんざい)の中に、尾花の物より異(こと)にて、手をさし出でて招くがをかしく見ゆるに、まだ穂に出でさしたるも……」は、その典型的な例である。『無名抄(むみょうしょう)』や『徒然草(つれづれぐさ)』の「ますほの薄」の語義を知ろうとする登蓮(とうれん)法師の数寄者(すきもの)ぶりの説話も有名。秋の季語。乱れ草、頻波(しきなみ)草など異名も多い。

[小町谷照彦 2019年8月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ススキ」の意味・わかりやすい解説

ススキ
Miscanthus sinensis; eulalia

イネ科の多年草。カヤとも呼ばれる。広く東アジアに分布し,各地の山野や土手などに普通に生える。地下に分枝した短い根茎があり,大きな株をつくって毎年地上茎を伸ばし高さ 2mに達する。葉は線形で緑色,中肋の部分だけ白い。秋,茎頂に十数本ぐらいの側枝のある花穂を出し,各枝にはほとんど基部から小穂が並ぶ。花には長い芒 (のぎ) があり,また基部に白色または帯赤紫色の多数の長い毛があるので,穂はふさふさして獣の尾のようにみえ,オバナ (尾花) の別名がある。秋の七草として挿花にも使われ,茎は屋根をふいたり,炭俵や草履に使われる。日本にはススキの仲間として常緑のトキワススキ (常盤薄),暖地の海岸に生える大型のハチジョウススキなどがある。

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百科事典マイペディア 「ススキ」の意味・わかりやすい解説

ススキ(芒/薄)【ススキ】

カヤ(茅)とも。イネ科の大型の多年草。日本全土の日当りのよい山野にはえ,しばしば大群落をつくる。高さ1〜2mになり,茎は束生して株をつくる。葉の縁には細かくかたい鋸歯(きょし)がある。夏〜秋に白色で,長さ20〜30cmの花穂を出す。小穂の基部には白い毛があり,小穂とほぼ同長。秋の七草の一つでオバナ(尾花)ともいう。屋根ふき材料とし,また斑入(ふいり)などの園芸品種もあり,観賞用とする。
→関連項目カヤ万葉植物

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デジタル大辞泉プラス 「ススキ」の解説

ススキ

えすとえむによる漫画作品。キャリア指向のカメラマンの姉と奔放だがやりたいことが定まらない妹の、それぞれの妊娠にまつわる話。『FEEL YOUNG』2009年11月号に掲載。祥伝社「作品集 このたびは」(FEEL YOUNG COMICS)に収録されている。

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世界大百科事典(旧版)内のススキの言及

【稲積】より

…刈ったばかりの稲穂のついたままの束を積み上げた場所は,そのまま田の神をまつる祭場と考えられていたという説もある。稲積の名称や形状は,各地で少しずつ異なっており,ニオのほかニゴ,ミゴ,ニュウ,ニョー,ツブラ,グロ,スズミ,ススキ,ホヅミ,イナムラ,イナコヅミなどと呼ばれ,頂にワラトベ,トツワラ,トビなどと呼ぶわら製の笠形の飾りや屋根をのせるのが特徴である。稲積が田の神の依代(よりしろ)とみなされていたとすると,その中に稲種子が保存されていたと想像されている。…

【カヤ(茅∥萱)】より

…ススキ,オギ,チガヤなど,主として屋根をふく材料に用いられるイネ科の植物の総称。古来〈刈屋(かりや)の約〉とか〈上屋(かや)の意〉などその語源について諸説があるが,金思燁によれば〈茅〉にあたる古代朝鮮語が,母音子音ともに日本語の〈カヤ〉に対応しており,朝鮮語に基づく可能性が強い。…

【花】より

…8月23日の一遍の忌日に,時宗では薄(すすき)念仏を行う。笹竹(ささだけ)にススキ1束を結んで名号軸を掛け,周囲で踊念仏をする。瀬戸内には葬式をすませた日の晩,死者の寝ていた部屋にススキを立て,念仏する島がある。…

※「ススキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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