知恵蔵 の解説
イニシャル・コイン・オファリング
企業の通常の資金調達手段には新規株式公開(IPO)がある。証券市場に上場する際には証券会社の協力が不可欠で、株式公開に当たっては厳密な事業計画書や決算の開示が求められる。これに対して、ICOは投資者に新たな事業について事業計画や資金の使途を記載したホワイトペーパーを公開するだけで出資を募ることができる。株式の発行や配当の支払いも不要で、インターネットを使って簡便に資金募集ができることから、証券市場に上場できない新興企業や個人、団体などであっても比較的簡単に資金調達が可能となる手法として注目されている。これに用いるトークンを発行・管理するために、仮想通貨のシステムであるブロックチェーンなどの分散台帳技術を利用することから、ICOと呼ばれる。
ICOは、インターネットなどを通じて一般大衆から資金を募集するクラウドファンディングの一種である。従来のクラウドファンディングでは、資金の募集者と投資者をつなぐプラットフォームが必要である。したがって、これを運用する米国のKickstarterや日本のCAMPFIREなどの企業のシステムに登録して資金を集めることになる。また、物品、サービスの提供や寄付集めを目的とするクラウドファンディングの規制はゆるやかだが、投資として金銭的リターンを見込むものについては、2014年の金融商品取引法改正により有価証券の一種として規制がなされている。そのため、資金募集には一定の要件が求められ、相当の手続きや費用も発生する。これに対して、ICOでトークンを発行する主体は資金の募集者自身である。このため、資金調達に伴う手続きや費用が、株式発行はもとよりクラウドファンディングと比べても大きく軽減できるメリットがある。しかし、出資者側から見れば、株式のような株主総会での議決権もなければ、出資者を保護する法制度も整備されていない。プロジェクトが失敗すればトークンは無価値になるが、それ以前にプロジェクトそのものが真正なものなのか、誠実に遂行されるのかについてすら担保されない。こうしたことから、中国や韓国はICOを全面的に禁止している。その一方で、スイスなどは一定の規制ガイドラインを設けて認可を与えている。日本では、仮想通貨については17年に消費税法で有価証券として認め、同年の資金決済法改正などで、取引所に登録制が導入され安全に取引できる環境を整えてきた。しかし、ICOについて具体的に規定する法制度はない。こうした中で、金融庁は17年10月に「ICOについて~利用者及び事業者に対する注意喚起~」を発表してリスクや詐欺の事例について言及すると共に、金融商品取引法の規制対象となりうることを示した。更に18年3月には、日本から海外のICOに参加することを禁止する方針を示している。
(金谷俊秀 ライター/2018年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報