株主が株主総会に出席して、その決議に加わる権利を議決権といい、各株主は原則として1株につき1個の議決権を有する(一株一議決権原則。会社法308条1項本文)。ただし、次の例外がある。
(1)単元未満株式には議決権はない(同法308条1項但書)。
(2)議決権制限株式では制限された事項について議決権はない(同法108条1項3号)。
(3)取締役・監査役の選解任株式(同法108条1項9号) 所定の取締役・監査役の選解任決議は、この種類株式を有している株主だけしか行えない。よって、当該取締役選解任についてその他の株主には議決権はない。
(4)相互保有株式(同法308条1項本文括弧(かっこ)書) 株式会社が総株主の議決権の4分の1以上を有する場合などに、支配されている会社等は、支配している会社の株式を有していたとしても、議決権を有しない。
(5)自己株式には議決権はない(同法308条2項)。
(6)特別利害関係人である株主の株式は、その議決権が一般的に排除されることはないが、特別利害関係人が関与した株主総会決議は、一定の場合、取消事由が発生する(同法140条3項、160条4項)。
(7)基準日後に取得された株式には議決権はない(同法124条)。なお、日本では、1株につき複数の議決権が与えられる議決権株は認められないが、単元株式の単元は株式の種類ごとに変えられるので、実質的に複数議決権を認められるような状況も作出できる。また、累積投票の制度は、数個の取締役選任決議を一括して行うもので、議決権の数についての例外とはいえない。
[戸田修三・福原紀彦]
株主が自分自身で株主総会に出席して、議決権を行使することが通常であるが、法律上、以下のような行使方法をも認められている。
(1)議決権代理行使 株主は代理人によって議決権を行使することができる(会社法310条1項前段)。この場合、株主または代理人は委任状を会社に提出することを要し(同法310条1項後段・3項)、代理権の授与は、株主総会ごとに行われなければならない(同法310条2項)。代理人資格について法律上の制限はないが、実際に代理人の資格を株主に限定する旨の定款の定めをおいている会社が多く、判例ではこのような定めを合理的理由による相当程度の制限の範囲で、有効と解されている。
(2)議決権不統一行使 2個以上の議決権を有する株主は、議案につき、その一部をもって賛成し、残部をもって反対することができる(同法313条1項)。たとえば、株主が株式の信託を受けるなど他人のためにも株式を保有している場合に、議決権を行使するときに、その他人の意向と自らの意向とが食い違う可能性がある。その際に、保有株式について議決権を不統一行使する必要がある。よって株主が他人のために株式を保有しているときではないときには、会社が不統一行使を拒否できる(同法313条3項)。取締役会設置会社の株主は、不統一行使をする旨およびその理由を株主総会の日の3日前までに通知しなければならない(同法313条2項)。なお、取締役会非設置会社の株主は、事前に会社に通知することなく、議決権の不統一行使が可能になる(同法313条2項)。
(3)書面投票・電子投票 株主が株主総会に出席せずに、議決権を行使することを可能とする制度であり、株主総会の招集を決定するに際して、書面または電磁的方法による議決権行使を利用するか否かが決定される(同法298条1項3号・4号)。ただし、議決権を行使することができる株主の数が1000名以上の会社では、原則として書面投票が義務づけられる(同法298条2項)。
[戸田修三・福原紀彦]
『加藤貴仁著『株主間の議決権配分――一株一議決権原則の機能と限界』(2007・商事法務)』
各種の団体や会議体の構成員として会議に出席して決議に加わり議案につき賛否の意思表示をなす権利。表決権ともいう。以下では,株主が株式会社における社員たる地位に基づき株主総会において決議に加わる権利について説明する。
株主は,資本団体としての株式会社の性質上,1株につき1個の議決権を有する(商法241条1項)。これを1株1議決権の原則といい,議決権が頭数に配分される合名会社や合資会社の場合と異なる(68条,151条2項など)。したがって,株式数の多寡が会社の支配を左右することになる。1株1議決権の原則には例外があり,〈議決権のない株式〉(〈株式〉の項目を参照)および会社の有する自己株式には議決権は認められない(242条,241条2項)。また,会社間に一定の株式相互保有の関係がある場合にも,自己株式に準じて議決権は認められない(241条3項)。なお,従来は,決議につき特別の利害関係を有する株主は議決権の行使が制限されていたが,1981年の商法改正に際し削除された。
2個以上の議決権を有する株主は,議案につきその一部をもって賛成し,残部をもって反対しても差し支えない(239条ノ2-1項前段)。このような議決権の不統一行使は,株式が信託されている場合などのように,名義上の株主と実質上の株主とが異なっているときに,名義上の株主が実質上の株主の意向に沿って議決権を行使するために必要となるからである。したがって,そのような必要のない場合には,会社は不統一行使を拒むことができる(239条ノ2-2項)。
議決権は代理人によって行使することもできる(239条2項)。必ず株主自身の出席を要求することは無理であり,また,個性が薄い株主についてはその必要もないからである。実際上は,会社が招集通知とともに委任状用紙を送ってその返還を求め,適当な者に代理行使させることが多かった。定足数を要する決議の成立を容易にするためであるが,同時に取締役などの会社支配の維持に利用される。そこで,議決権の行使を容易にするとともに,株主の意向を総会に反映させるため,1981年の法改正で,会計監査人の監査を必要とする大会社のうち株主が1000人以上のものについては,総会の招集通知に議決権行使の参考書類と書面投票用紙を添付しなければならず,総会に出席しない株主は,書面によって議決権を行使することができるものとしている(〈株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律〉21条の2,21条の3)。ただし,上場会社にあって全株主に委任状を勧誘したときは,当分の間,書面投票の制度をとらなくてもよく,その場合,証券取引法の規制を受ける。
→株主 →株主総会
執筆者:青竹 正一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…なお,例外的に少数株主が招集権限を有する場合があるが(237条),81年の商法改正で,新たに,少数株主に一定の事項を会社の招集する総会の議題とすることを請求する権利と,自己の提出する議案の要領を総会の招集の通知に記載することを請求する権利が認められている(232条ノ2)。 各株主は,総会に出席して質問し意見を述べる権利,および決議に加わる権利すなわち議決権を有する。議決権の数は1株につき1個であり(241条1項),議決権は代理人によっても行使できる(239条2項)。…
※「議決権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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