日本大百科全書(ニッポニカ) 「イヌビワ」の意味・わかりやすい解説
イヌビワ
いぬびわ / 犬枇杷
[学] Ficus erecta Thunb.
クワ科(APG分類:クワ科)の落葉または常緑小高木で、沖縄以南では常緑。高さ約5メートル。樹皮は灰色を帯びる。葉は互生し柄があり、倒卵形ないし長楕円(ちょうだえん)形、長さ8~20センチメートル、ほぼ全縁で紙質、裏面は淡緑色。葉の腋(わき)に1個まれに2個のいちじく状花序をつけ、倒卵形ないし球形で紫黒色に熟す。雌雄異株。イチジク属の植物では、花序が特異な形の壺(つぼ)状となり、頂端の孔が鱗片(りんぺん)に覆われ、花は外界から隔離されている。そのため花粉の媒介は、種に特有のイチジクコバチ科の小昆虫が寄生して行われるという。コバチが寄生して生じる虫癭花(ちゅうえいか)と雄花とをつける花序は食べられないが、雌花の花序は受粉して実り、食用となる。この属の植物(約800種)の多くは熱帯に分布する。種子の散布は鳥によってなされ、鳥の消化液で種子の発芽が促進されるようである。直接播種(はしゅ)したのではめったに発芽しない。関東地方以西の本州、四国、九州、沖縄と、台湾に分布する。
[島袋敬一 2019年12月13日]