改訂新版 世界大百科事典 の解説
インスタントフォトグラフィー
instant photography
撮影した直後にその場で画像が得られるインスタント写真のこと。白黒フィルムは10~60秒,カラーフィルムは60秒~数分で画像が完成する。白黒インスタント写真は1948年,カラーインスタント写真は63年に,いずれもアメリカのポラロイドPolaroid社のランドE.H.Landにより発明・商品化されたのが最初で,ポラロイド写真,ポラロイドランドカメラの名で知られる。アマチュアおよびプロ写真家用の各種フィルムとカメラをはじめ,工業用,医療用の各種フィルムと付属装置も実用化されており,近年この分野は著しく発展している。フィルム感度(露光指数)は白黒でISO50~20000,カラーでISO75~600のものがある。
原理
インスタント写真の原理を一般の写真と対比して説明する。一般の写真の場合には,現像(発色)-停止(中和)-漂白-定着-水洗の各処理工程を必要とする。これに対して,インスタント写真では,画像に必要な成分のみを拡散させプリント上に転写させる拡散転写法を利用し,また,アルカリ性処理液を中和して安定な画像を得るための酸を含有する層がフィルム自体に設置されている。このため停止(中和)-漂白-定着-水洗の各工程が不要であり,1回の操作だけで画像が完成する。インスタントフィルムは,基本的には感光層と受像層を含む2枚のシート,処理液を含有するさや状の袋から構成されている。フィルムの型としては,露光から処理後まで感光層と受像層を含む2枚のシートが一体型構造となっているものと,露光後処理までは感光層シートと受像層シートが重ね合わされているが,画像が完成した時点で受像層シートのみをひきはがす剝離(はくり)型構造のものとがある。
拡散転写法による画像は,次のようにして形成される。感光層が露光されたのち,処理液の袋はカメラ内の2本の圧力ローラー間を通るときに裂開し,処理液が感光層と受像層を含む2枚のシート間に均一に広げられる。感光層では,ハロゲン化銀AgXが露光の程度に応じて現像され,このAgXの現像に対応して画像形成物質が発生する。この画像形成物質が受像層へ拡散して固定されるのである。白黒写真では,画像形成物質は水溶性の銀錯体である。処理により感光層のAgXは露光の程度に応じて現像されて銀Agとなり,一方現像されなかったAgXは,処理液中のAgX溶剤に溶解し銀錯体となる。この銀錯体が現像核を含む受像層へ転写されたのち,銀に還元され,銀画像が形成される(銀塩拡散転写法)。カラー写真では,画像形成物質は色素であり減色法にもとづいている。色素を生成する色材としては,本来拡散性であるがAgXの現像に応じて不動性となる型のもの(色素現像薬)と,本来不動性であるがAgXの現像に応じて色素を放出する型のもの(色素レリーサー)とがある。色素は媒染剤を含む受像層へ拡散して画像が形成される。感光層には,青,緑,赤に感じる各AgX乳剤層と,イェロー,マゼンタ,シアンの各色材層とが配列されている。受像層上にポジ画像を得るためには,色材の型に応じてネガ型または反転型のAgX乳剤が組み合わせてある。
上記のほかに,インスタントムービーおよびインスタントスライドがある。この原理は上述のカラー写真と異なり,赤,緑,青の微小なフィルター要素と,前記の銀塩拡散転写法を組み合わせた加色法によるものである。
→カラー写真
執筆者:阪之上 清以紀
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報