肉眼に感ずる被写体の色彩とその明暗の調子を再現する写真。天然色写真ともいう。白黒写真の発明以前からカラー写真の研究はされていたが,後述の三原色法が実用化するまでは,写真に直接絵具で着彩する方法で満足するほかはなく,これは初期のダゲレオタイプから行われていた。現在のカラー写真はほとんどが発色現像による多層式カラー写真法を用いたものである。現在でも,正確な色再現には太陽光と人工光などの色温度の違いを配慮し,複数のタイプのフィルム(デーライトタイプとタングステンタイプなど)が必要というめんどうな点を残しているが,家庭などのふつう一般の使用においては,フィルムや現像法が安定し安価にもなったので,今日カラー写真の普及率は飛躍的に増大して従来の白黒写真のほうが特殊化しつつある。白黒写真と比較した場合に,カラー写真には〈色〉という情報が付加されるという点で情報性が増し有利であるが,しかし一方では,白黒写真の高度の〈抽象性〉(あらゆる色彩が白黒の濃淡のみに還元されてしまう)が逆に再認識されて,表現的な性格の強い作品にはむしろ白黒写真が好んで利用され始め,今後もこの傾向はますます著しくなると予想される。
→カラー映画
執筆者:大辻 清司
色の再現方式としては,被写体の色と同一の分光組成をもつ色を再現するものと,被写体の色と分光組成は一致させずに,色覚理論に基づいて,感覚的に色の見え方が一致するように再現するもの(三原色法)とがある。前者の例としては,フランスのG.リップマンの行った光の干渉を利用する方法(1891)がよく知られている。これはリップマン乳剤(0.1μm以下のとくに微細なハロゲン化銀を含んだ特殊な写真乳剤)を写真感光層として用い,感光層の膜厚方向での光の干渉を利用する色再現方式である。しかしこの方式は,リップマン乳剤の写真感度が低いこと,ゼラチン膜厚の不安定性および色彩像の観察のための操作が煩雑なことなどのため,広く実用化されなかった。
現在のカラー写真に利用されている三原色法は,ヤング=ヘルムホルツの色覚の三原色説に基づいている。三原色説は,可視光の波長領域(約400~700nm)をだいたい3等分して得られる赤・緑・青色の3色光を適当な割合で混合すれば,さまざまな色を再現できるというものである。三原色法はその混色方法により,赤・緑・青色光そのものを混合する加色(加法混色)法と,それらの色の補色であるシアン(青緑色),マゼンタ(赤紫色),イェロー(黄色)の色素を混合する減色(減法混色)法とに分類される。
加色法カラー写真はイギリスのJ.C.マクスウェルが初めて写真的に実証した方式(1861)で,まず色フィルター,あるいはモザイクスクリーンなどを用いて,被写体を3色分解して撮影する。例えば色フィルターを用いる3色分解法では,カメラレンズの前に赤,緑,青のフィルターを順次かけて被写体を3回撮影し,被写体の赤・緑・青色成分を3枚の白黒ネガフィルムに記録する。このネガ像を反転してポジ像を作成し,プロジェクターを使用して,赤色フィルターを通して得られたポジ像を赤色光でスクリーンに投影する。同様に緑色フィルターによるポジ像を緑色光で,青色フィルターによるポジ像を青色光で同一スクリーン上に3種の像が正しく重なるように投影すると,各色光が加え合わされて被写体と同じ色彩像が再現される。加色法カラー写真は3色分解の過程が複雑であり,この解決のため3色分解が同時に行えるワンショットカメラなども開発されたが,投影が不便であったり再現色彩像の画質に不満があったりして,現在ではほとんど用いられていない。
減色法カラー写真は,フランスのデュコー・ドゥ・オーロンLouis Ducos du Hauron(1837-1920)が減法混色の実験に基づき提案し特許を得た方式(1869)で,減法混色の三原色であるシアン,マゼンタ,イェローの色素を適当な割合で混合することにより被写体の色彩像を再現するものである。前述のように,減法混色の三原色は加法混色の三原色の補色であり,シアン色素は白色光中の赤色成分,マゼンタ色素は緑色成分,イェロー色素は青色成分を吸収し,その吸収量の多少によりさまざまな色を再現する。この方式では3色分解によりネガ像を得る段階までは加色法カラー写真と同一であるが,それをポジ像にする過程で三原色像を得,各原色像を重ねて観察する。このため多層構成に適しており,現在のカラー写真はほとんどすべて減色法色再現を採用している。
なお,カラー写真の感光方式としては,現在まで多くの方法が提案されてきたが,高い写真感度を必要とする一般撮影用カラー写真には,もっぱらハロゲン化銀を感光物質とするもの(銀塩写真)が用いられている。
→色
減色法の三原色であるシアン,マゼンタ,イェローの色素を生成させる方法としては,次のようなものが実用化されている。(1)発色現像法 カップラーと呼ばれる発色剤と,発色現像主薬の酸化生成物とのカップリング反応(発色現像)によって色素を生成させる方法。発色現像主薬としてはパラフェニレンジアミン誘導体が,カップラーとしては活性メチレン基をもつ化合物が用いられる。カップリング反応によりインドアニリン色素,アゾメチン色素などが生成するが,これらの色素のうち適当なものがシアン,マゼンタ,イェローの色素として用いられている。現在のカラー写真の多くは発色現像法を採用しており,カップラーを感光層中にあらかじめ含めておく内型(内式)とそうでない外型(外式)とがある。(2)色素像拡散法 露光量に応じて拡散する色素の量を変化させ,受像層で拡散してきた色素を固着させて色彩像を形成する方法。発色方法には現像作用をもつ色素(色素現像薬)を用いるものと,現像反応により色素を生成する色素放出化合物を用いるものとがある。この方式は数分間で色彩像が得られるので,インスタントフォトグラフィーに用いられている。(3)銀色素漂白法 感光層中にあらかじめ加えられたアゾ染料などの色素を,露光量に応じて得られた現像銀により漂白し,残った色素によりポジの色彩像を形成する方法。多数のアゾ染料の中から適当な色素を選択できるので,発色現像法に比較して色が鮮やかで耐光性の高い色彩像が得られる。(4)色素転染法 3色分解ネガをマトリックスフィルムと呼ばれる特別なフィルムに焼き付けポジ像とし,さらにポジ像から露光量に応じた凹凸をもつゼラチンのレリーフ像を作成,このレリーフ像に染料を吸い込ませ,媒染剤を含む受像層に転写させて色彩像を作成する方法。この方式はマトリックスフィルムを版とする印刷ともみなせるが,色素の選択が幅広く行えるので色が鮮やかで保存性の良好な色彩像が得られる。
以上のように,現在もっとも広く一般に用いられているカラー写真は,発色現像方式による多層構成の減色法カラー写真(以下単にカラー写真という)である。カラー写真には被写体とは明暗が逆で補色のネガ像が得られるカラーネガフィルムがふつう使われている。これをカラーペーパーに焼き付け反転し,被写体と同じ明暗,色彩のポジ像を再現する。そのほか,直接ポジ像が得られるカラー反転フィルム,映画用のカラーポジフィルムなど用途に応じて多種類のカラー写真が開発され実用に供されている。
カラー写真の多層構成の順序は種類によっても異なるが,例えばカラー反転フィルムでは図1のものが代表的である。感光物質として用いられているハロゲン化銀の感光性は,本来青色光にのみ限定されている(固有感度)ので,緑・赤色光では感光しない。このため,シアニン色素などを増感色素として乳剤に添加し,感光性を緑・赤色光の領域まで拡張する分光増感が行われている。さらに,分光増感された乳剤も青色光への固有感度をもっているので,図1に示すように青感層の下にイェローフィルター層を設け青色光を吸収している。こうして得られた各感光層の代表的な分光感度分布を図2に示す。赤・緑・青感層では感光した程度(露光量)に応じて,発色現像によりシアン,マゼンタ,イェローの色素が生成する。露光量と発色する色素濃度の関係は特性曲線と呼ばれているが,ふつう,直線ではなく逆S字形をしている。
各色素が吸収する色光は,例えばシアン色素が赤色光を吸収する以外に他の波長領域の色光でも吸収するように,完全に理想的なものになっているわけではなく,また,図2に示された分光感度分布は人間の目の分光応答とかなり異なっており,さらに特性曲線も完全な直線ではないので,カラー写真では明るさも含めて被写体の色をすべて正しく再現することは困難である。初期のカラー写真の色再現性は不十分なものであったが,新しい増感色素や発色剤などの合成とともに,自動マスキングおよび現像効果の利用による色補正などの新技術の開発により著しく向上した。また当初ハロゲン化銀乳剤の感度は低いものであったが,増感技術の進歩によりISO(ASA)感度1000を超える一般撮影用カラー写真が開発され,撮影範囲が大幅に拡大された。図3にカラー反転フィルムおよびカラーネガフィルムによるカラー写真作成の過程を示しておく。
→写真
執筆者:大田 登
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
色彩を再現できる写真.一般には,三原色の減色法が用いられる.青,緑,赤の各色に感光するハロゲン化乳剤を多層塗布した感光材料(カラーネガフィルム,カラーリバーサルフィルム,カラー印画紙)を用いて,撮影後発色現像を行う.これにより,各色の補色であるイエロー,マゼンタ,シアンの色素がそれぞれの層で生成され,カラー画像が得られる.このほかに,
(1)3色成分を別々の感光層で撮影し,イエロー,マゼンタ,シアンの3色で画像を合成する方法(テクニカラー法),
(2)露光で生じた銀を触媒として色素を漂白する方法(チバグローム),
(3)色素の拡散を制御する方法(インスタント写真),
がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…75年,この電気毛管現象の研究によりソルボンヌ大学で学位を取得,86年から同大学の実験物理学教授。1881年干渉現象に基づいたカラー写真を考案,くふうを重ねて91年実験に成功,この研究によって1908年ノーベル物理学賞を受賞した。ほかにもシーロスタット,加速度地震計などの考案もある。…
※「カラー写真」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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