知恵蔵 「インターネット告発」の解説
インターネット告発
一般市民にとって、様々な不法行為や反社会的行為、理不尽な事柄があることを知っても、それを告発したり公に批判したりすることは容易ではなかった。犯罪行為ならば警察や検察などの捜査機関に告訴・告発を行う、不法行為ならば社会団体やマスコミなどの支援を受けて裁判を起こすなど、手段は限られ手間や費用の大きな負担が課されていた。このため、ある人の知るところとなっても、見逃しとされていた事例も少なくない。ところが、インターネットを利用した情報手段の急速な普及により、一般市民がその意思を容易に広く世間に公表できるようになった。これを利用して、議会や行政、企業などの組織や機関、及びこれに属する個人による犯罪や不法行為を知り、それらを見かねた市民がその事実をインターネットでたやすく発信し、問題提起するようになった。このような事柄をインターネット告発といい、刑法上の犯罪被害者が行う「告訴」についても当局に向けてではなく、広く世間に向けて発信されるため、共にインターネット告発と呼ばれる。その手軽さから、相当数の告発がなされるが、インターネット上の非難の矛先が逆に告発者に向かうケースも見られる。
大手電機メーカーが顧客をクレーマー呼ばわりした音声が公開され、論議を呼んだ事件や、尖閣諸島での中国漁船との衝突映像を海上保安官が意図的に漏洩(ろうえい)した事件などがよく知られている。また、職場の過酷な労働環境や公共機関の不当な対応などに対しても、論議の俎上(そじょう)にのせることを可能とし一定の成果をもたらしていると評価されている。その一方で、悪意ある「告発者」が特定の個人や団体をおとしめることを目的として虚偽の主張を行う場合もある。更に、企業代理人弁護士の意見書や取締役会議事録をウェブサイトで暴露したことで、名誉棄損などに問われた事件もあり、インターネット告発でも、秘密の暴露における公共性や公益性などについて十分な検討が求められる。
(金谷俊秀 ライター/2015年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報