ウイチョル(英語表記)Huichol

改訂新版 世界大百科事典 「ウイチョル」の意味・わかりやすい解説

ウイチョル
Huichol

メキシコ中西部ナヤリ州とハリスコ州に住むウト・アステカ語系の原住民。人口は約2万で,その65%がスペイン語を併用する。乾燥した山岳地にランチェリアという世帯集合を多数形成し,トウモロコシカボチャ,タバコなどを焼畑農法で栽培するほか,牛乳・チーズを食用にする。狩猟採集もその補助的重要性を失っていない。スペイン人による征服以前の土着的宗教とキリスト教の融合が色濃く見られ,カトリックの諸聖人は,それぞれ雨・健康・物質的繁栄などをつかさどる100を超える土着の神々と同一視されている。祭司であるマラカメと呼ばれるシャーマンは,神々との交信用に鷹の尾羽根で飾った祈禱用の弓矢,〈神の眼〉と呼ばれる祭具などを用いる。マラカメは祈禱医でもあり,邪術師でもある。10~2月の乾季には,ペヨーテという幻覚作用のあるサボテンを採集するために,サン・ルイス・ポトシ州などに数百kmに及ぶ巡礼に赴く。これを食べて恍惚状態になった男女は,大猟と豊饒を祈願する儀礼的舞踏をする。ウイチョルは,織込み・刺繡をほどこした色彩豊かな民族衣装や神話的情景を描いた毛糸絵でも名高い
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウイチョル」の意味・わかりやすい解説

ウィチョル
うぃちょる
Huichol

メキシコのハリスコ州とナヤリート州北部の西シエラ・マドレ山脈に住むウト・アステカ語族の先住民(インディオ)。焼畑にトウモロコシ、マメ、カボチャなどを栽培している。伝統的には自治共同体(コムニダード)を形成し、各共同体は祭祀(さいし)センターを中心にいくつかの集落(ランチェリア)からなる。集落はたいてい親族関係にある数家族からなるが、家と家は互いに歩いて数時間かかるぐらい離れている。相続、出自は双系的で、親族も双系的な関係が重視される。ほとんどが一夫一妻であるが、一夫多妻もみられる。結婚後約1年間夫は妻方で働き、その後新しい家を建てて妻とともに移る。キリスト教の影響下にあるものの、いまも彼ら独自の宗教を維持している。重要な神は火の神(祖父)、太陽の神(父)、大地と水の神(母)であり、またシカは兄とよばれ神聖視されている。彼らの宗教でとくに有名なのはペヨーテ信仰とよばれるもので、ペヨーテという名のサボテンの一種を食べて恍惚(こうこつ)状態となり、その間に神と交流し、理想郷幻影をみる。ウィチョルの歴史は不明だが、スペインによる征服後、メキシコ中北部から現在の地に移住してきたと考えられている。

[板橋作美]

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