改訂新版 世界大百科事典 「ウチワヤンマ」の意味・わかりやすい解説
ウチワヤンマ
Ictinogomphus clavatus
トンボ目サナエトンボ科の昆虫。日本にいるものではこの科のうちもっとも大型で,体長約8cm。雄の第8腹節には半円形の葉片がついているのでこの名がある。雌ではこれは小さい。青森から鹿児島まで,平地の池沼,あるいは湖でふつうに見られる。大陸では朝鮮半島,中国を通じてトンキンにまで至る。台湾にも少なくないが,琉球諸島には見られない。本州では5~7月ころ多く出現し,成熟した雄は水域の内周を飛翔(ひしよう)し,棒上に静止する。交尾は飛翔しながら行われる。幼虫は独特の三角にとがった光沢ある腹部をもつもので,湖岸に抜殻がたくさんついていることがあるが,その生活史の詳細はわかっていない。湖の深い泥底に生活し,羽化時には水面まで泳ぎ出し,岸に到達して羽化を行うと想像されている。近似種のタイワンウチワヤンマI.pertinaxは中国南部,台湾,琉球諸島にふつうであるが,近年九州,四国の全域に広がった。
執筆者:朝比奈 正二郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報