日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ウルフ(Thomas (Tom) Kennerly Wolfe, Jr.)
うるふ
Thomas (Tom) Kennerly Wolfe, Jr.
(1930―2018)
アメリカのジャーナリスト、小説家、美術家。バージニア州のリッチモンド生まれ。ワシントン・アンド・リー大学を卒業。在学中は『シェナンドー・レビュー』を編集する。エール大学で博士号を取得。ワシントンとニューヨークで新聞記者となり、その後、『ニューヨーク・マガジン』と『エスクワイア』の編集者となる。1950年代から1960年代にかけてのビート派に続く1960年代、1970年代のニュー・ジャーナリズムの旗手。彼自身『ニュー・ジャーナリズム』(1973)を共編している。彼は小説のようなノンフィクションにより、大衆文化から美術評論、宇宙計画までにわたるアメリカ文化を、俗語・卑語・自らの造語による独特な文体で綴(つづ)る。
デビュー作は『五目みかん模様つき流線型のいかす女』(1965)。次の『クール・クールLSD交感テスト』(1968)は、小説家ケン・キージーと彼のヒッピー・グループなどを描く。評論集『現代美術コテンパン』(1975)と『バウハウスからマイホームまで』(1981)は、それぞれ美術界と建築界を嘲笑(ちょうしょう)する。アメリカ図書賞を受賞したノンフィクション『ザ・ライト・スタッフ――七人の宇宙飛行士』(1979)はマーキュリー計画のジョン・グレン宇宙飛行士などを扱い、映画化されて評判となる。
1980年代に入ると、ウルフはノンフィクションから小説に向かい、最初の小説『虚栄の篝火(かがりび)』(1987)はパーク・アベニューとブロンクスのゲットーを対照して描き、75万ドルの版権で映画化された。2冊目の小説は『成りあがり者』(1998)。
そのほかにコラム集『ワイルド・パーティへようこそ』(1976)、画文集『そしてみんな軽くなった』(1980)などがある。
[古平 隆]
『諸岡敏行訳『バウハウスからマイホームまで』(1983・晶文社)』▽『高島平吾訳『現代美術コテンパン』(1984・晶文社)』▽『中野圭二訳『虚栄の篝火』上下(1991・文芸春秋)』▽『高島平吾訳『アメリカ・コラムニスト全集 トム・ウルフ集――ワイルド・パーティへようこそ』(1992・東京書籍)』▽『飯田隆昭訳『クール・クールLSD交感テスト』(1995・太陽社)』▽『中野圭二訳『ザ・ライト・スタッフ――七人の宇宙飛行士』(中公文庫)』▽『青山南訳『そしてみんな軽くなった――トム・ウルフの1970年代革命講座』(ちくま文庫)』▽『古賀林幸訳『成りあがり者』上下(文春文庫)』▽『玉木明著『言語としてのニュー・ジャーナリズム』(1992・学芸書林)』