篝火(読み)カガリビ

デジタル大辞泉 「篝火」の意味・読み・例文・類語

かがり‐び【×篝火】

夜間警護照明漁猟などのためにたく火。かがり。
源氏物語第27巻の巻名。光源氏が、玉鬘たまかずらもとで篝火をたかせ、夕霧柏木との合奏を楽しむ。
[類語]街灯外灯常夜灯門灯軒灯

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精選版 日本国語大辞典 「篝火」の意味・読み・例文・類語

かがり‐び【篝火】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. かがり(篝)
      1. [初出の実例]「かがり火にあらぬわが身のなぞもかく涙の河にうきてもゆらん〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋一・五二九)
      2. 「御まへのかがり火の、すこし消えがたなるを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)篝火)
    2. やりて(遣手)」の異称。
      1. [初出の実例]「かがり火とは、やりてと云事、心の火をたゐたりけしたり、もの思ふといふ心」(出典:随筆・当世武野俗談(1757)松葉屋瀬川)
  2. [ 2 ] 「源氏‐第二七帖」の名。光源氏三六歳の七月、初秋の一夜、玉鬘を訪ねた源氏は篝火をたかせ、柏木、夕霧を呼んで、ともに合奏を楽しむ。玉鬘十帖の第六。

こう‐か‥クヮ【篝火】

  1. 〘 名詞 〙 夜中に貴人を警護したり、漁業で魚を集めたりする時などにたく火。かがり火。かがり。
    1. [初出の実例]「篝火何須候帰路、待看烟渡月生時」(出典:六如庵詩鈔‐二編(1797)五・秋日郊行雑詩五首)
    2. [その他の文献]〔欧陽脩‐集古録目録序〕

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改訂新版 世界大百科事典 「篝火」の意味・わかりやすい解説

篝火 (かがりび)

鉄製の籠の中で薪をたいて照明する火をいい,またその鉄製の籠を篝という。〈かがり〉は〈輝り〉の意であるという。《万葉集》に鵜飼いのときに篝を用いた歌があるので,奈良時代からあったことがわかる。平安時代以来さかんに用いられ,《北野天神縁起絵巻》には船の舳先(へさき)につっている。篝の形には半球形のもの,下を細くして鉄輪(かなわ)が動くようにしたものなどがある。鎌倉時代には京都に48ヵ所の篝屋がおかれ,ここに兵士がたむろし,夜中の警護に当たった。篝というのを衛兵のことにも解するのはこれからである。儀式の庭上,陣中にも用いられた。
執筆者:

漁火としての篝火は〈いさりび〉ともいう。このほか漁師の間では〈夜焚き(よたき)〉〈火振り〉〈焚入れ〉などという言葉が,篝火をたく漁の意として用いられてきた。水面で暗夜に火をたくと,イワシ,アジ,サバ,イサキ,イカなどは火影に寄り集まってくるが,アユサワラなどは火光に驚いてにわかに逃げる。篝火はこうした魚の習性を利用したもので,古くから各地の川や海岸で行われた。しかし海の網漁では,焚入れ漁業の行われない海域で新しくこれを始めようとすると,前例のない漁法として周囲の漁師の反対にあい,禁止されることが多かった。その後,明治末期ころから松明たいまつ)以外に石油,アセチレンガス,カーバイドによる発火方法が導入され,さらに電力による集魚灯の利用がさかんになった。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「篝火」の意味・わかりやすい解説

篝火
かがりび

屋外で照明用に燃やす火。照明としてもっとも原初的なものは庭火(焚(た)き火)であり、それから進んで、椀(わん)または籠(かご)状(多くは鉄製)のものに薪(たきぎ)(多くは松)を入れて燃やすようになったのが篝火である。夜中の警護・照明または漁猟の際に用いられ、古代以来広く行われたが、現代では薪能(たきぎのう)や鵜飼(うかい)に用いられるのが印象に残りやすい。『源氏物語』第27帖(じょう)を「篝火」と題しているのは、ほのかな篝火の火影に見える女性の姿を情趣深くとらえるところからきたものである。

[萩原龍夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「篝火」の意味・わかりやすい解説

篝火
かがりび

古来の照明具の一つ。主として屋外用のもので,手に持って移動するときは松明 (たいまつ) を使い,固定するときは篝火を使う。松の木などの脂 (あぶら) の多い部分を割り木にして,鉄製の篝籠に入れ,火をつけるもので,「かがり」の名も細長い鉄片を編んだ容器からの命名といわれる。軍陣や祭礼など,野外に多数の人の集るときに使うほか,漁船に取付けて集魚灯の役目も果した。有名な長良川の鵜飼舟にも,篝火を取付けており,古風を重んじる祭礼の夜間行事には,今日でも使われることがある。

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