エートス(読み)えーとす(英語表記)ēthos ギリシア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エートス」の意味・わかりやすい解説

エートス
えーとす
ēthos ギリシア語

本来ギリシア語で「性格」を意味することばであるが、生まれつきの天性と後に身につけた習性との両面を含む。個人については、一時的な感情(パトス)や純粋な知能と区別されたひととなり人柄をさし、社会的には、ある民族や集団の特徴をなす道徳慣習習俗などをさす。この意味で、倫理ないし倫理学にあたるドイツ語Ethikが生まれてきた。ただしエートスは、価値規範として自覚的に定立された当為(ゾルレン)ではなく、集団や社会層に共有されて無自覚的レベルで人々のひととなりを規制しているしきたり、またそれによってつくられた人柄をさし、集合的心性、精神構造、人間類型などのことばがその訳語として用いられている。

 こういう意味を強調して、方法的概念としての学問のなかに取り込んだのは、マックス・ウェーバーであった。彼はエートスを倫理学説のレベルではなく、宗教、政治、経済などへ向かう社会的行為の動機づけのレベルで取り上げ、目的―手段連関や担い手の社会層と関係づけて、多くの社会学的な分析を行った。資本主義の「精神」とか世界宗教の経済「倫理」とかいうことばは、この意味でのエートスをさしている。のちにフライヤーは、没価値的なロゴス科学に対立させて、倫理的価値判断を与えるエートス科学という概念を考えたが、今日ではこの使い方は踏襲されてはいない。

徳永 恂]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エートス」の意味・わかりやすい解説

エートス
ēthos

一般に「性格」と訳されるギリシア語であるが,アリストテレス倫理学では,その品位を選択 (プロアイレシス) によって判定しうるような,個人の本来的あり方をさし,ある場合には一時的な感情 (パトス) ,ある場合には知性 (ディアノイア) と対比される。この意味では,エートスは習慣づけ (→エトス ) によって確立された持続性,恒常性をもつが,他方,より生得的な性格を表わす場合もある。エートスはまた人間の集団についても用いられ,その倫理的特徴をさす。以上が古代におけるエートスの基本的意味であるが,近代においては,1つの社会,民族の特色をなす性質,道徳をさす社会学的,人類学的用語としても用いられる。このような意味を明確化したのは M.ウェーバーである。訳語は必ずしも一定せず,ときに応じて「経済倫理」「宗教倫理」,より広く「精神的雰囲気」などと訳出されている。その意味するところはまず,なんらかのあるべき姿をさし示す「倫理」 ethicsとは区別された,本人の自覚しない日常的生活態度であり,また「激情」 pathosとも対立的なものである。日常的生活行動や生活態度を最奥部で規定し,常に一定の方向に向わせる内面的原理を意味する。

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