改訂新版 世界大百科事典 「オオコウモリ」の意味・わかりやすい解説
オオコウモリ (大蝙蝠)
fruit bat
flying fox
翼手目大翼手亜目オオコウモリ科Pteropodidaeに属する哺乳類の総称。果食または花粉食で吻(ふん)が細く,眼が大きな顔がキツネに似ている。オオコウモリ亜科,シタナガオオコウモリ亜科,テングフルーツオオコウモリ亜科,オナシフルーツコウモリ亜科に大別され,42属171種からなる。形態,大きさ,生息場所,食物とも変化に富む。現生種はアフリカ,アジア,オーストラリア,メラネシア,ミクロネシア,ポリネシアなどの亜熱帯,熱帯に分布するが,イタリアの中部漸新世から化石が発見されている。
大きさはシタナガオオコウモリ亜科に属するシコニクテリス属Syconycterisの頭胴長5cm前後,前腕長4~5cm,翼開張25cm前後の小さなものから,オオコウモリ亜科に属するオオコウモリ属Pteropusのジャワオオコウモリの頭胴長40cm前後,前腕長23cm,翼開張1.4~1.5mの大きなものまである。耳介の基部は筒状で,小翼手亜目の多くに見られる耳珠,迎珠を欠き,顔に鼻葉などの付属葉がない。多くは前肢の第1,2指にかぎづめをもち,尾がないかまたは痕跡的で,腿間膜(たいかんまく)の発達が悪く,翼は幅広い。眼窩(がんか)が広く,後眼窩突起が顕著である。臼歯(きゆうし)や前臼歯の歯冠部が低く,臼状で,かむ面には縦溝があり,果食,花粉食に適応した形態をもつ。
多くのものは,熟した果物の果汁,果肉(食べるときに種子,皮,繊維を吐きだす),花のみつを食べるが,シタナガオオコウモリ類は長くのびる舌で花粉をなめる。これらの食物は栄養価が高く,消化がよく,他の植物食のある哺乳類のように消化にバクテリアの力をかりる必要がなく,したがって消化器官も小さい。また,テングフルーツコウモリ類やルーセットコウモリ類は昆虫も食べる。ルーセットコウモリ類以外は視覚や嗅覚をたよりに採食し,果物の熟すのに応じて移動する。多くは大きな木の枝に,単独または小群をつくってすむが,ルーセットコウモリ類のように洞窟に1万頭にも及ぶ大群をつくるものもある。日中はねぐらにいて,夕刻または夜,ときに日中もねぐらを離れ,活動する。大型のオオコウモリ属のものは,ねぐらから15kmほどのところまで食物を探しにいく。冬眠はしない。繁殖期は種や生息地で異なり,閉眼で有毛の1~2子を年1回生む。バナナなどの農園ではオオコウモリ類による被害がはなはだしい。なお,日本では南西諸島にエラブオオコウモリおよびオキナワオオコウモリ,小笠原諸島にオガサワラオオコウモリの3種がすむ。オキナワオオコウモリは,1870年(明治3)に発表されてから採集記録がなく,絶滅したものと考えられる。
執筆者:吉行 瑞子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報