改訂新版 世界大百科事典 「オオバコ」の意味・わかりやすい解説
オオバコ
Plantago asiatica L.
東アジアに広く分布するオオバコ科の多年草。葉が大きいことから,〈大葉子〉と名付けられたという。ロゼット葉をもち裸地を好むが,芽の位置が低く葉や茎には強い繊維があるので,踏まれてもよく耐え,グラウンドのまわりや路上に生える(このような植物を〈踏み跡植物〉という)。このため中国では車前(しやぜん)と呼ばれる。種子の腹面中央には小さなへそがあり,ぬれると粘るため種子は靴などに付着して運ばれる。
春と秋に長い花茎をあげ,緑色の小さな花を多数つけるが,子どもはこの花茎をからませてその強さを競う。雌蕊(しずい)先熟で,花穂の下から順に上へと白いめしべが現れ,そのあとを追うようにおしべが熟する。合弁花で子房上位。花冠は膜質で小さく,4本の長い花糸をもつおしべが突出している。花粉は乾いて飛びやすい。これらの点はオオバコ科に共通の性質で,この科が風媒花として進化したことを示している。
若葉はゆでて水にさらすと食用になる。生薬ではオオバコの種子を車前子,全草を車前草という。車前子は多量の粘液およびビタミンA,B1を含む。粘液を部分水解すると3種の二糖類が得られ,あらゆる泌尿器系統の炎症に用いられ,利尿,排尿効果がある。そのほか泌尿器系結石の溶解を助け,また細菌性眼科疾患にもよい。車前草は慢性気管支炎および高血圧症に使われるが,新鮮なものの方が効果がある。欧米では同属のP.psyllium L.の種子を下剤とする。
オオバコ科は3属265種あり,日本にはオオバコ属Plantago(英名plantain/rib-wort)のみ6種を産する。トウオオバコP.japonica Fr.et Sav.はオオバコに似るが,大型で30cm以上の葉をもち,本州から九州の海辺に生える。オオバコとともに栽培される園芸品種がある。へら形の葉をもつヘラオオバコP.lanceolata L.(英名はrib-wort plantain)はヨーロッパ原産の帰化植物で,江戸時代の末期ごろ渡来した。またツボミオオバコP.virginica L.は北アメリカ原産で明治末に帰化し,西日本に多い。和名は花冠が開かず自花受粉することによる。
執筆者:森田 竜義+新田 あや
民俗,伝承
オオバコの属名や英名はラテン語のplanta(〈足の裏〉の意)に由来しており,ウェールズでは〈キリストの足跡〉,北米インディアンの間では〈白人の足跡から生じた草〉などといわれている。イギリスの俗信にも,この葉をもんで足に塗りつければ旅の疲れがとれ,靴下に入れておけば長旅に耐えられるとある。ほかに恋占いに用いられたり,穂状の花をたたき落としあう遊びに使われ,シェークスピアの時代には傷や熱に効く薬草としても尊ばれた。また中国でも服用すると体が軽くなったり,老衰を防げると信じられていたらしい。
執筆者:荒俣 宏 日本でもオオバコは干して煎じたものは咳止め,解熱,貧血などの民間薬として使われる。またオオバコはカエルッパとかビッキグサなどと呼ばれ,半死または死んだカエルの上にこの葉をのせると,カエルが生き返るといわれている。オオバコの茎を交差させて相撲取り草にして子どもが遊んだり,オオバコをひきぬいてみて根から抜けると雨の前兆とされ,茎から切れると天気がよいという。沖縄では入棺の際にオオバコの根を焼いて入れなければ,極楽に行けないと伝えている。
執筆者:飯島 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報