EBM 正しい治療がわかる本 「慢性気管支炎」の解説
慢性気管支炎
●おもな症状と経過
慢性気管支炎(まんせいきかんしえん)は、急性気管支炎が慢性化したものではなく、まったく別の病気です。痰(たん)を伴ったせきが、2年以上にわたってでている状態をいいます。とくに冬期に症状が悪化し、それ以外の時期には一時的に症状が落ち着く傾向があります。ただし、1年中症状が続く人も約3割程度います。
気道が狭くなっているため呼吸が苦しくなりやすく、作業や運動をしたときに息切れすることがあります。「ぜいぜい」という呼吸音もおこりますが、気管支喘息(きかんしぜんそく)と違って発作的なものではありません。
この病気では細菌による肺の感染症、たとえば肺炎などをくり返しやすく、肺機能が徐々に低下していきます。
●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
気管支の表面は細かな線毛(せんもう)に覆(おお)われ、分泌(ぶんぴつ)される粘液とともに、外からの異物を排除する働きをしています。慢性気管支炎はこの働きがスムーズになされなくなった状態です。
このような状態は、一つのことが原因でおこるのではなく、いくつもの要因が重なっておこると考えられています。加齢、性別、アレルギー素因、気道の状態、喫煙、大気汚染、細菌やウイルスの感染などが影響しあって発症することになります。なかでも喫煙が最大の原因といわれています。
年齢とともに気管支腺(きかんしせん)が肥大することも関係しています。気管支腺は気道の粘液生産と分泌に関係する器官です。慢性気管支炎の人は、粘液が過剰に分泌される状態にあり、このため痰が増えたり、気道に炎症がおこったりしやすくなっています。
また、気道に炎症がおこると、気道が狭くなって空気がうまく流れなくなり、呼吸が苦しくなります。
●病気の特徴
40歳以上の人に多くみられ、男性が女性の約2.5倍です。
大気が汚染されている地域に住んでいる人や、粉塵刺激性(ふんじんしげきせい)のガスのある職場で勤務する人に、とくに多く認められます。
よく行われている治療とケアをEBMでチェック
[治療とケア]薬物治療を行う
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 薬物治療の目標は、症状の管理、増悪(ぞうあく)を抑えること、健康状態の改善にあります。そのために、気管支拡張薬が治療の中心になります。このことは、信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。(1)
[治療とケア]冬期にはインフルエンザワクチンを接種する
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 日本のほか欧米でも慢性気管支炎の患者さんに対するワクチン接種を勧めています。ワクチン接種によって、急性増悪や死亡が約50パーセント減少したという信頼性の高い臨床研究があります。(1)(2)
[治療とケア]腹式呼吸法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 腹式呼吸法は、胸部と腹部の協調運動の妨げになるという報告があり、効果についてははっきりしていません。(3)
[治療とケア]体位ドレナージにより排痰を促す
[評価]☆☆
[評価のポイント]体位ドレナージによる排痰は、臨床研究によって効果は確認されていないようですが、専門家の経験や意見から支持されています。
[治療とケア]在宅酸素療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 在宅酸素療法(1日15時間以上)によって、生命予後(病気の経過や寿命の長さ)が改善されることが非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。酸素分圧55(酸素飽和度88パーセント)以下がこの治療の適応です。(4)
よく使われている薬をEBMでチェック
気管支拡張薬
[薬名]メプチン(プロカテロール塩酸塩水和物)(5)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]サルタノールインヘラー(サルブタモール硫酸塩)(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] β2刺激薬の効果は非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。
[薬名]テオドール/ユニフィルLA/ユニコン(テオフィリン徐放剤)(7)(8)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] テオフィリン徐放剤の効果については非常に信頼性の高い臨床研究によって、呼吸状態の改善を認めると報告されています。
[薬名]アトロベントエロゾル(イプラトロピウム臭化物水和物)(9)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]スピリーバ(チオトロピウム臭化物水和物)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] イプラトロピウム臭化物水和物およびチオトロピウム臭化物水和物は、非常に信頼性の高い臨床研究によって効果が確認されています。
去痰薬(きょたんやく)
[薬名]ムコダイン(カルボシステイン)(11)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ムコソルバン(アンブロキソール塩酸塩)(12)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 去痰薬については、非常に信頼性の高い研究によって効果が確認されています。
総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まず禁煙すること
この病気の最大の原因は喫煙です。たばこを吸っている患者さんは、まず禁煙しなくてはなりません。そのうえで、以下の治療をするかどうかを考えます。
気管支拡張薬、在宅酸素療法は有効
なんらかの種類の気管支拡張薬を用いること、肺から体に取り入れられる酸素があるレベル以下にまで低下したなら、在宅酸素療法を行うことなどについては、非常に信頼性の高い臨床研究で有効なことが示されています。
副作用に注意して薬剤を使用
患者さんによっては、気管支拡張薬でもさまざまな副作用がおこる場合があります。
メプチン(プロカテロール塩酸塩水和物)やサルタノールインヘラー(サルブタモール硫酸塩)などのβ2刺激薬には動悸(どうき)、頻脈(ひんみゃく)(脈が速い)、振戦(しんせん)(ふるえ)、吐き気・嘔吐(おうと)など、テオドール/ユニフィルLA/ユニコン(テオフィリン徐放剤)には頭痛、振戦、不眠、いらいら感など、アトロベントエロゾル(イプラトロピウム臭化物水和物)では頭痛、振戦、発疹(ほっしん)、口内乾燥などがおこりえます。したがって、適切な種類の薬を適切な量、適切な時間間隔で服用する必要があります。
苦痛がなければ体位ドレナージも可
体位ドレナージの有効性は必ずしも明確ではありませんが、それ自体には副作用や合併症がありませんので、苦痛でない限り行うべきでしょう。去痰薬の効果は、信頼性の高い臨床研究で有効性が検証されているわけではありません。副作用さえなければ、試してみてもよいと思われます。
感染症の予防が重要
慢性気管支炎に肺炎を合併することも多く、それによって生命にかかわる状況になることがあります。したがって、あらかじめ感染症の予防、たとえばインフルエンザや肺炎球菌に対する予防接種に努めることが大切です。
また、いったん感染症が疑われた場合は、すぐにペニシリン系もしくはセフェム系の抗菌薬を使って、適切な治療をしなければなりません。
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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報