慢性気管支炎(読み)まんせいきかんしえん(その他表記)Chronic Bronchitis

家庭医学館 「慢性気管支炎」の解説

まんせいきかんしえん【慢性気管支炎 Chronic Bronchitis】

◎たんとせきが長期間続く
[どんな病気か]
 慢性気管支炎は、原因不明のせきとたんの症状が長く続く状態に対する病名です。肺結核(はいけっかく)や気管支拡張症(きかんしかくちょうしょう)によるなど、原因が明らかな病気の場合は、慢性気管支炎とは呼びません。
 健康な人の気管支内をおおう粘膜(ねんまく)には杯細胞(さかずきさいぼう)という細胞があり、気管支腺(きかんしせん)という分泌腺(ぶんぴつせん)が開口していて、空気とともに入ってくる異物から呼吸器を守るために、粘液や分泌物を送り出しています。これが異物をとらえて、のどのほうに押し出されたものがたんです。
 しかし、長い間たばこを吸っていると、杯細胞や気管支腺が増加して、そこからの分泌物がたまってできる、たんも増えるようになるのです。
 こうした症状がみられる慢性気管支炎は、ほとんどの場合、肺気腫(はいきしゅ)(「肺気腫」)という病気をともなうので、まとめて慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)(COPD(「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」))という診断名が使われます。
 この場合、せきやたんという症状や慢性気管支炎という病気のようすは、肺の機能障害とはあまり関係がなく、むしろ病気としては、肺気腫のほうが問題になることが多いのです。
◎たばこが重要な原因
[原因]
 慢性気管支炎は、長期の喫煙がもっとも重要な原因と考えられています。
 喫煙による慢性的な刺激が、気管支の部分に慢性気管支炎の病変を、肺胞(はいほう)の部分に肺気腫の病変を、別々にひきおこすと考えられています。
 日本では、蓄膿症(ちくのうしょう)(副鼻腔炎(ふくびくうえん))が原因とみられる、せきとたんを示す患者さんが比較的多いようです。欧米では、副鼻腔炎による、せきとたんを示す患者さんを別の病気と診断するのに対し、日本では、これも含めて慢性気管支炎という診断名を使う医師もいます。
◎専門的な検査が必要
[検査と診断]
 少なくとも、1年のうち3か月以上せきとたんが持続し、それが2年以上続き、ほかの明らかな病気がなければ、慢性気管支炎と診断されます。
 慢性気管支炎という診断名が安易に使われているという批判が多くあります。実際、専門的な検査を受ければ、ちがった診断名がつくこともまれではありません。
 たとえば、呼吸器の病気のなかで、せきとたんが長期間続くものには、びまん性汎細気管支炎(せいはんさいきかんしえん)(「びまん性汎細気管支炎」)や気管支拡張症(きかんしかくちょうしょう)(「気管支拡張症」)があります。そして、この2つの病気は、ほとんどの場合、慢性副鼻腔炎をともなっています。
 これらの呼吸器の病気がなく、慢性副鼻腔炎だけの場合も、せきやたんが続くことがあります。鼻の症状がほとんどなくても、慢性副鼻腔炎がある場合がありますので、耳鼻科を受診することをお勧めします。
 気管支ぜんそくも、せきやたんが長期間続く原因となることがあります。ぜんそくといえば、息苦しい発作(ほっさ)やゼイゼイまたはヒューヒューといった音が出る(喘鳴(ぜんめい))などの症状があるのが一般的です。
 しかし、このようなぜんそくに典型的な症状をほとんど示さず、せきやたんだけを症状とする気管支ぜんそくがあることもわかっています。
 その場合、ぜんそくと診断することはむずかしく、薬剤を吸入して気管支が収縮しやすいかどうかを測定する気道反応性検査や、たんの中に好酸球(こうさんきゅう)という細胞が増加しているかどうかをみるたん検査など、専門的な検査が必要になります。
 医学的に正確な診断としての(狭い意味の)慢性気管支炎は、多くの場合に肺気腫をともない、からだを動かす(労作時(ろうさじ))と息切れを自覚します。
 この場合、肺機能の検査をすると、最初の1秒間にはき出す(呼出(こしゅつ)する)ことができる息の量(一秒量)が減っており、これを閉塞性肺機能障害(へいそくせいはいきのうしょうがい)と呼びます。
 これはたばこが原因でおこるため、もし、たばこを吸った経験がないのに慢性気管支炎と診断されたら、前述したような別の原因によって、慢性気管支炎の症状が現われたものと考えてみる必要があります。
 たばこについては、現在、喫煙しているかどうかより、以前にどれだけの量を喫煙したかのほうが重要です。
 たばこによる慢性気管支炎のなかには、肺機能検査が正常で、肺気腫をともなわない場合がまれにあります。この場合、せきとたんという症状だけで、ほかの異常がまったくないわけで、通常は病気には含めていません。
◎基本は禁煙プラス薬物療法
[治療]
 たばこが原因である慢性気管支炎を治療するには、禁煙がもっとも重要です。
 しかし、禁煙しても、かなり長期間せきやたんの症状が続くことがあり、禁煙の効果は年の単位で考える必要があります。
 からだを動かすと息切れを自覚する場合は、気管支拡張薬と呼ばれる吸入剤がもっとも有効です。多くの内服剤の効果はかぎられています。
 慢性副鼻腔炎に関連したせきやたんについては、副鼻腔炎に対する治療が必要です。
 また、びまん性汎細気管支炎や気管支拡張症には、エリスロマイシンという薬を数年間服用し続けると効果があります。
 気管支ぜんそくによるせきやたんには、吸入ステロイド薬によるぜんそく治療が劇的な効果を現わします。
◎適度な運動が症状改善に役立つ
[日常生活の注意]
 安静にしていても、病気はよくなりません。毎日の散歩など、生活に積極的に運動を取り入れてください。
 また、発熱など、かぜ症候群の症状があるときは、早く受診することが必要です。
 予防としては、禁煙がもっとも重要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

食の医学館 「慢性気管支炎」の解説

まんせいきかんしえん【慢性気管支炎】

《どんな病気か?》


〈気管支への慢性的な刺激によって起こる〉
 慢性気管支炎(まんせいきかんしえん)は、せきとたんの症状が3か月以上にわたって続く状態をさします。
 この病気ともっともかかわりの深いのが、タバコです。健康な人でも、呼吸器をまもるために、気管支の粘膜(ねんまく)には粘液や分泌物(ぶんぴつぶつ)がでています。これが空気とともに入ってきた異物をとらえ、のどのほうに押しだされたものがたんです。
 しかし、長いあいだタバコを吸っていると、その慢性的な刺激で分泌物がふえ、たんが多くなるのです。同時に、異物を排除するための反射的な反応であるせきもふえます。

《関連する食品》


〈ビタミンA、C、Eとレシチンを含む食品をとる〉
○栄養成分としての働きから
 慢性気管支炎を治すには、禁煙をすることが大前提ですが、食事でもつとめてビタミンA、C、E、それにレシチンをあわせてとることがたいせつです。
 ビタミンAは粘膜を丈夫にする働きがあります。ビタミンCは免疫力を高め、ビタミンEは血行をよくする働きがあります。また、レシチンの構成成分であるコリンには、血管を拡張させる働きがあります。
 ビタミンAは動物性食品に含まれるレチノールと、植物性食品に含まれるカロテンからとることができます。レバー、ウナギ、コマツナ、カボチャ、シュンギク、ブロッコリーなどを食べるといいでしょう。
 ビタミンCはイチゴ、パパイア、キウイ、柑橘類(かんきつるい)などのくだものや、ブロッコリー、ネギなどの野菜にも含まれています。
 ビタミンEはアーモンド、ヘーゼルナッツなどのナッツ類、ウナギやたらこ、カボチャやアボカドなどに、レシチンはダイズや卵黄に多く含まれています。
○漢方的な働きから
 トウガンの種子には、熱をやわらげ、たんを取り除く働きがあるといわれています。
 トウガンの種子にザラメを適量加えて粉にし、お湯で飲むと、せきをやわらげるのにも効果があります。
 シュンギクはカロテンやビタミンCが豊富な緑黄色野菜ですが、せきを止め、たんを切る効果にもすぐれています。煮ても生で食べてもおいしく、粘りけの強いたんをすみやかに切るといわれています。

出典 小学館食の医学館について 情報

生活習慣病用語辞典 「慢性気管支炎」の解説

慢性気管支炎

気管や気管支が慢性的に炎症を起こすことで、痰や咳が続く状態をいいます。呼吸機能検査で診断される慢性閉塞性肺疾患 (COPD) の 1 つです。喫煙、大気汚染などが原因となります。

出典 あなたの健康をサポート QUPiO(クピオ)生活習慣病用語辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の慢性気管支炎の言及

【気管支炎】より

…発熱が数日以上続くときには,肺炎の合併を疑う必要がある。
[慢性気管支炎]
 この病気は急性気管支炎が慢性化したものではなく,別個のものである。気管支粘膜からの粘液の過剰な分泌を特徴としており,普段から咳,痰が出,とくに冬季に悪化する。…

【公害病】より

…(1)第一種地域 事業活動その他の人の活動に伴って,相当範囲にわたる著しい大気の汚染が生じ,その影響による疾病が多発しているが,汚染物質と健康被害との間に特異的な関係がなく,被害者個々人について原因物質を特定することが困難な疾病の多発した地域として指定されているもので,東京都19区,川崎2区,四日市臨海地域,大阪市全域,北九州市洞海湾地域など41地域が指定地域となっている。疾病としては,慢性気管支炎気管支喘息喘息性気管支炎肺気腫とこれらの続発症が定められており,3年間以上これらの地域に居住または通勤した者が指定疾病にかかっている場合に認定されることになっている。認定は,認定を受けようとする者の申請に基づき,指定地域を管轄する都道府県知事,政令市(区)長が医師,法律家などの専門家による公害健康被害認定審査会の意見を聴いて行うことになっている。…

【呼吸機能】より

…このために肺胞気量に対する換気の割合は,肺尖では低く,肺下部では大きい。慢性気管支炎や慢性肺気腫などの気道閉塞性の病気では,肺内各部で非常に不均等に気流に対する抵抗が増加するので,肺上下の不均等換気に加えて,非常に小さい単位で換気の悪い肺胞とよい肺胞が生じ,肺胞での酸素取込みが著しく障害され,肺胞気と動脈血間の酸素分圧較差が増大し,動脈血酸素分圧は低下する。肺胞毛細血管膜を通るガス交換は,二酸化炭素の場合は水に対する溶解度係数が酸素の20倍もあるためにほとんど抵抗にならない。…

※「慢性気管支炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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