改訂新版 世界大百科事典 「おしら信仰」の意味・わかりやすい解説
おしら信仰 (おしらしんこう)
東北地方に分布する家の神(屋内神)の信仰。桑の木などの木の先に,男女2体の顔や馬などの顔を彫刻または墨がきしたものにオセンダクと称する衣装を包頭形もしくは貫頭形に着せて,家の中の神棚の祠に納めまつったものをオシラ様もしくはオシラボトケという。福島県のオシンメイ様や岩手・山形両県にみられるオクナイ様も同系統の神であろう。村の草分け的な旧家にまつられていることが多いが,イタコなどの宗教者が所有していることもある。オシラという語源やその神格がなんであるか明らかでないが,中世末にすでにまつられていたことが確認されている。祭祀集団は,家ごと,同族的集団,地縁的集団,信者(講)集団などに分類できるが,古態は家屋敷・同族をまつり手とする神であったと考えられる。いずれの場合も,まつり手が女性であるという点で共通する。オシラ様の祭日を縁日とか命日と呼び,神棚から出して神饌を供えて祭りを行ったり,オセンダクを着せ替えたりする。祭りのために,イタコやワカ,シンメイミコなどの巫女をやとい,両手にオシラ様をもち上下左右に振り舞わせながら,祭文などを語り唱える。これをオシラアソバセという。祭文は〈オシラ様の本地〉のほか,〈金満長者〉〈せんだん栗毛〉など各種あり,オシラ様を蚕神とみなす地域では〈蚕霊(蚕影山)の本地〉を語ることもある。この神をまつる家は富貴自在といわれるが,祭祀を怠ると氏子にたたるともいい,また二足・四足の肉を嫌うというタブーがともなっていた。このため,近年では寺社や宗教者に委託してしまう家も多い。
西日本では,岡山県のミコ神祭祀や高知県山間部のオンザキ様,平野部のウノカミ様などが,オシラ様に類する神として知られている。とくに高知県のオンザキ・ウノカミ信仰は,家・一族の神であり,富をもたらすが祭祀が不足するとたたりをなし,二足・四足を嫌うなど多くの類似点がある。ただし,この神のまつり手は主として男性である。
→蚕
執筆者:小松 和彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報