改訂新版 世界大百科事典 「ガイタン」の意味・わかりやすい解説
ガイタン
Jorge Eliécer Gaitán
生没年:1898-1948
コロンビアの政治家。イタリアで刑法を学び,ムッソリーニの影響を受けた。1929年自由党の国会議員となり,34年左翼革命国民連合を結成。ついで首都ボゴタ市長(1936)や文相(1940)に就任し,教育や福祉などの諸制度の確立や民主的改革に尽力。46年の大統領選挙では,人気,実力とも自由党内随一の候補であったが,穏健派の策謀により党内指名を拒否され,これを不満とする左派は,彼を擁立して選挙に臨んだ。そのため漁夫の利を得た保守党が16年ぶりに政権の座に返り咲き,大衆は選挙結果に強い不満を抱いた。翌年の国会議員選挙は自由党が圧勝し,彼への大衆の支持はさらに固まった。急激なインフレ,失業者の増大,階級対立の激化のなかで,彼の支持者を中心に,農村で警察や保守党員との衝突があいつぎ,北部では内戦状態に入った。都市ではストが頻発した。そして48年4月9日,ボゴタ市では第9回米州機構会議が開催されたが,この日,彼は街頭で凶弾に倒れた。暗殺の指令者が大統領であるとの流言を信じた彼の支持者は,その復讐を叫び,山刀や爆薬を手に蜂起,これは2000人の死者を出したボゴタソBogotazoと呼称される大暴動に発展した。首都の大衆が蜂起したとの情報は瞬時のうちに全国に伝わり,各地で暴動を引き起こした。自由党・保守党間の武力衝突は激化の一途をたどり,殺戮(さつりく)戦が展開された。ボゴタソに続く数年間は〈ビオレンシア(暴力)の時代〉と呼ばれ,30万近い人命が失われた。
執筆者:上谷 博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報