マヤ系の先住民(インディヘナ、インディオ)。キチェ・マヤともよばれる。グアテマラ中西部高地の農村共同体に生活することが多かったが、近年は商業も含めてさまざまな職業が増え、また都市部や国外への移民も増加している。「キチェ」とはマヤ語の一つであるキチェ語を話す人々についての言語学上の概念であるが、先住民運動の高まりのなかでアイデンティティ意識とも結び付いている。キチェの総数は100万人以上とされ、隣接する地域のカクチケルやツトゥヒルとの関係が強い。この地域ではとくに1980年代前半のグアテマラの内戦期に、きわめて多数の犠牲者や難民が出た。宗教面では、先スペイン期のマヤ宗教とスペインのキリスト教とが習合した「民俗カトリシズム」が、共同体や民族のアイデンティティとも結び付いていた。しかし、近年はより正統的なカトリシズム、またプロテスタンティズムへの改宗が進み、とくにプロテスタント人口の増大は著しい。歴史的にみれば、1524年にスペイン人アルバラドPedro de Alvarado(1485ころ―1541)により征服されたキチェ王国は、ウタトランを首都とし、後古典期後期のマヤ圏最強の国家だったという。征服後まもなくキチェ語で書かれた聖典『ポポル・ブフ』は、マヤの宗教と歴史を知るうえでの貴重な資料であるとともに、アメリカ先住民文学として最高のものに数えられている。
[小泉潤二]
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