北アメリカとラテンアメリカの政治的、文化的、経済的な融合を目的として整備が進められた大道路網。北・中央・南アメリカ大陸を覆って21か国を相互に結び付けており、北はアラスカのフェアバンクスから、南はアルゼンチン南端のフエゴ島にまで及んでいる。全長20万8933キロメートル。これは、パン・アメリカニズムの制度的表現である米州機構(OAS)の枠組みのなかで論じられ、発展してきた。前史は1880年代に提唱された、アメリカ大陸を鉄道で連絡するパン・アメリカン鉄道の構想である。その構想が実現しないうちに、T型フォード車の登場とともに自動車時代が始まり、ついに1925年、ブエノス・アイレスにおいてパン・アメリカン・ハイウェー会議が常設され、それまでの鉄道構想にかえて道路網を建設すべきだとの決議が行われた。3年後の第6回アメリカ諸国国際会議において建設が正式に決定され、1936年には、それまでのような各国の自主判断による建設ではなく、初めて加盟各国に建設を義務づけるパン・アメリカン・ハイウェー協約が締結された。1940年代の終わりまでに、中央アメリカではメキシコ―パナマ間の62%がいちおう整備され、南アメリカではコロンビア―アルゼンチン間9263キロメートルのうち、通過不可能区間はわずか331キロメートルにまで減るという進歩ぶりであった。建設資金は、各国の自主資金のほか、合衆国の援助、米州開発銀行の融資などであった。出発当初は、主として各国の首都をつなぐ南北の単軸として構想されたが、その後の道路交通の増大と、発展途上国の発展におけるその重要性の高まりによって、多くの路線が追加されて今日に至る。アマゾン流域を貫通する道路、内陸国であるパラグアイやボリビアを海につなげる道路、太平洋と大西洋をつなぐ大陸横断道路などがそれである。1987年現在全線のほぼ99%が完成しており、残るのはパナマとコロンビアの国境の、広大なジャングルを通る部分のみである。この区間の建設困難の原因は主として資金不足によるものであるが、これは、動物の口蹄疫(こうていえき)が南アメリカから中央アメリカへ浸透するのを防いでいるジャングルを切り開くことに合衆国が踏み切れず、資金援助を保留していることがとくに響いている。残区間の完成は、コロンビア側の防疫体制がいつ完成するかにかかっているが、現在の見通しでは早くて1990年代の後半になるとされている。
[武田文夫]
南北アメリカ大陸を縦貫する国際道路。北はアラスカのフェアバンクスから,カナダ,アメリカ合衆国,メキシコ,中央アメリカを経由して南アメリカ各国を結び,アルゼンチン最南端のフエゴ島に至る。全長20万8933km。北アメリカとラテン・アメリカの文化的・政治的・経済的結合をめざすパン・アメリカ主義の実現手段として1880年代に構想されたパン・アメリカ鉄道計画に代わるものとして,1923年の米州会議でその建設が提案された。36年の米州会議において〈パン・アメリカン・ハイウェー協約〉が結ばれ,その建設が関係国に義務づけられた。米州開発銀行の融資も行われて建設が進み,現在ほぼ全線の開通をみている。路線は1本ではなく,支線,補完線を含んだ一つの道路システムとなっている。
執筆者:武田 文夫
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