日本大百科全書(ニッポニカ) 「キチジ」の意味・わかりやすい解説
キチジ
きちじ / 喜知次
吉次
channel rockfish
bighand thornyhead
kichiji rockfish
[学] Sebastolobus macrochir
硬骨魚綱カサゴ目フサカサゴ科に属する海水魚。本州中部以北、オホーツク海南西部、ベーリング海に分布し、とくに三陸沿岸沖と北海道の太平洋側に多い。日本海にはいない。アカジ(茨城県)、キンキ(北海道、青森県、岩手県)、メンメ、メイメイセン(北海道)などともよばれている。体は低く、頭に多数の鋭い棘(とげ)が並ぶ。目の下から頬にかけて5~8本の棘がある。目が著しく大きい。胸びれの下部軟条は肥厚し、葉状に突出する。体は朱赤色で、背びれの中央部に1個の大きい黒斑(こくはん)がある。
産卵期は2~5月で、この期には親魚は水深150メートル前後の海底に集まって産卵する。卵は寒天質の紐(ひも)状の卵嚢(らんのう)に包まれ、長さ約35センチメートル、幅6.5センチメートルの長円形の塊になって海面を漂流する。10日ほどで孵化(ふか)し、1年で9センチメートル、2年で12センチメートルと年間に2、3センチメートルずつ成長し、30センチメートルぐらいになる。17センチメートルほどで成熟し、寿命は10年ぐらい。成魚は普通水深150~400メートルの比較的泥の多い礫底(れきてい)にすむが、若魚は浅い砂泥底を好む。水深1200メートルで捕れたこともある。オキアミ、エビ類、クモヒトデ類などを好んで食べる。
底引網、底刺網(そこさしあみ)、延縄(はえなわ)などで漁獲され、水産業上重要種である。白身で脂肪が多く、煮つけ、焼き魚、鍋物(なべもの)、干物などにすると美味。小さいものはカマボコの原料にされる。近縁種にはアラスカキチジやヒレナガキチジがあり、これらはおもに北洋の深海にすみ、味はキチジより劣る。
[尼岡邦夫]