キリスト教労働組合(読み)キリストきょうろうどうくみあい

改訂新版 世界大百科事典 「キリスト教労働組合」の意味・わかりやすい解説

キリスト教労働組合 (キリストきょうろうどうくみあい)

キリスト教労働組合は,イギリスより産業革命が1世代はおくれたヨーロッパの大陸諸国で19世紀後半に生まれた。当時の支配的な労働組合運動は,目的と綱領の点で社会主義と社会主義政党に結びついており,キリスト教労働組合はそれへの対抗として結成された面もある。ドイツでのカトリック労働組合運動の起源は,1869年マインツの司教ウィルヘルム・ケトラーの演説に始まるとされる。91年のローマ教皇レオ13世の有名な回勅〈レルム・ノウァルム(新しい事柄)〉が人間の尊厳を言明して労働問題に対する教会使命を明示したことは,ヨーロッパ全体に新しい労働観をもたらし,キリスト教労働組合の発展への契機となった。99年にはプロテスタント系組合と合同してドイツ・キリスト教労働組合連盟が結成され,第1次大戦直前には組合員35万人,戦後の1920年には100万人に達した。第2次大戦後の労働組合運動再建には,戦線を統一してドイツ労働総同盟(DGB(デーゲーベー))が結成され,55年にザール地区を中心に勢力を盛り返したが,現在も少数派にとどまっている。フランスでは,有力なフランス・キリスト教労働総同盟(CFTC,1919設立)が64年に〈組織の世俗化〉を目ざしてフランス民主労働総同盟(CFDT(セーエフデーテー))と改名し(一部はそのまま残った),その組織と行動力を高め,77年には旧キリスト教系の国際労連WCL)と手を切るに至った。イタリアでは旧キリスト教系労働組合と合体したCISL(イタリア労働組合同盟)が国際自由労連に加盟し,傘下の一部ACLI(イタリア・カトリック労働者協会)が国際労連の特別加盟にとどまるだけである。

 キリスト教労働組合が有力なのはベルギー(CSS,1909設立)とオランダである。オランダでは,カトリックの人々とプロテスタントの人々とは日常生活がまったく別々といえるが,ここでも異変が起こった。1960年代の経済の高度成長と国際化によってこうした地盤が揺り動かされ,76年には低落気味のカトリック系労連KAB(1906設立)は社民系労連NVV(1906設立)と合同してFNV(組合員120万人)を結成した。その結果,プロテスタント系組合CNV(1909設立)は少数右派の位置に追いやられた。ヨーロッパ以外では,カナダケベック州に戦前からカトリック系組合があって,現在の全国組合総同盟(CNTU)はその後身である。現在最も活発なのは,搾取や弾圧に苦しむ地域の多いラテン・アメリカであって,カトリック系指導者が行動力のある組合運動を農村を含めて展開している。国際キリスト教労働組合連盟(IFCTU)が1968年に〈キリスト教〉の名を削除して国際労連に改名し,全世界的な存在への脱皮を試みたのは,この大陸での経験からでもある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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