カトリック教会用語で,ローマ教皇が司教を通じて信徒全体に伝える文書。むかし,その使者が馬で各教区を回ったことから,この名称ができた。回章ともいう。通常ラテン語で出され,その冒頭の2,3語をもってその回勅の名称とするならわしである。また同時に,しばしば近代語の公訳が付されて発行される。回勅は今日では《聖座公報Acta Apostolicae Sedis》により公布される。その教導権威は内容により異なり,不可謬的教理決定に回勅の形式がとられることはまれである。内容は宗教・道徳・社会問題などいろいろあるが,そのうちことに,社会・経済問題に関するものは〈社会回勅〉と呼ばれる。この回勅はカトリック社会思想の何たるかを知る直接資料として最も重要で,第2バチカン公会議以前の社会回勅の中では,レオ13世の〈レルム・ノウァルムRerum novarum〉(1891年5月15日,労働問題)とピウス11世の〈クアドラゲシモ・アンノQuadragesimo anno〉(1931年5月15日,社会経済秩序再建案)が世界的反響を呼んで有名。そのほか近代の有名な回勅を挙げれば,レオ13世の〈プロウィデンティシムス・デウス〉(1893年11月19日,聖書),ピウス10世の〈パスケンディ・ドミニキ・グレギス〉(1907年9月7日,近代主義の謬説),ベネディクトゥス15世の〈パケム・デイ・ムヌス〉(1920年5月25日,平和),ピウス11世の〈ディウィニ・イリウス・マギストリ〉(1929年12月31日,キリスト教的教育),〈カスティ・コンヌビイ〉(1930年12月31日,キリスト教的婚姻),ピウス12世の〈ミスティキ・コルポリス〉(1943年6月29日,キリストの神秘体)などがことに知られており,第2バチカン公会議前後から今日に至るまで次のものが出されている。
ヨハネス23世の〈マテル・エト・マギストラ〉(1961年5月15日,キリスト教と社会の進歩),〈アエテルナ・デイ・サピエンティア〉(1961年11月11日,聖大レオ死後1500年祭に),〈パエニテンティアム・アゲレ〉(1962年7月1日,第2バチカン公会議成功のための償いの週に),〈パケム・イン・テリス〉(1963年4月11日,地上に平和を),パウルス6世の〈ミステリウム・フィデイ〉(1965年9月3日,聖体),〈クリスティ・マトリ・ロザリイ〉(1966年9月15日,ロザリオ),〈ポプロルム・プログレシオ〉(1967年3月26日,諸民族の進歩推進について),〈サケルドタリス・カエリバトゥス〉(1967年6月24日,司祭の独身制),〈フマナエ・ウィタエ〉(1968年7月25日,人間の生命の伝達に関する道徳原理),ヨハネス・パウルス2世の〈レデンプトル・ホミニス〉(1979年3月4日,人間の贖(あがな)い主),〈ディウェス・イン・ミセリコルディア〉(1980年11月30日,いつくしみ深い神),〈ラボレム・エクセルケンス〉(1981年9月15日,働くことについて)。
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執筆者:安井 光雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ローマ教皇が全世界のカトリック者にあて、信仰または道徳の問題に関し権威ある指針を表明する際の書簡の形式をいう。ときとして社会問題や平和の問題に関し、全世界の善意の人々すべてに訴えかける場合もある。たとえば、1963年ヨハネス23世の『地上に平和を(パーチェム・イン・テッリス)』Pacem in terrisのアピールがそれである。
社会・経済問題に関してカトリックの理念から指針を表明したものとしては、レオ13世の『レールム・ノバールム』(1891)とピウス11世の『クワドラジェシモ・アンノ』(1931)が有名で、社会回勅とよばれる。回勅は普通ラテン語で書かれ、近代語の公訳が付され、その最初のことばが回勅のタイトルとなる。回勅は、一般的にはカトリック信者の信仰と道徳を守り、その一致を保持するための重要な媒体とみなされている。しかし、20世紀になって二つの回勅に関連して注目すべき論議が生じた。一つは、1950年にピウス12世が出した『フマニ・ジェネリス』Humani generisであった。そこで教皇は、「論議中の問題に回勅がある指針を与えた場合、もはや神学者は自由に議論してはならない」と付け加えた。しかし、第二バチカン公会議(1965)は最終草案からこの文面を削除した。二つ目は、人工的避妊方法を反自然として退けたパウルス6世の『フマーネ・ビテ』Humanae vitae(1968)に関し、今日では回勅の権威を一般化するよりは個々の理非曲直によって判断されるべきであるとされている。
[越前喜六]
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