日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギンポ」の意味・わかりやすい解説
ギンポ
ぎんぽ / 銀宝
blennies
硬骨魚綱スズキ目ゲンゲ亜目のなかのタウエガジ科、ニシキギンポ科とボウズギンポ科、ワニギス亜目のベラギンポ科とトビギンポ科およびギンポ亜目魚類の総称、またはニシキギンポ科のなかの1種をさす。ギンポ類は多数の種類を含む大きな一群で、世界中に広く分布する。
近年この類の分類体系は大きく変化した。従来、ギンポ亜目としてまとめられていたニシキギンポ科、タウエガジ科、ボウズギンポ科などはゲンゲ科、オオカミウオ科、メダマウオ科などと一緒にゲンゲ亜目にまとめられ、ベラギンポ科はワニギス亜目に移り、ギンポ亜目にはヘビギンポ科、コケギンポ科、アサヒギンポ科およびイソギンポ科が残された。大まかに言えば、暖海系のギンポ亜目と、寒海系のゲンゲ亜目に大別される。
前者の暖海系のギンポ亜目にはクロマスクギンポ、ヘビギンポなどを含むヘビギンポ科、コケギンポのコケギンポ科、カエルウオ類のイソギンポ科などが属し、一般に小形で、ごく沿岸の岩礁域や潮だまり(タイドプール)にすむ。腹びれは普通よく発達する。
他方、後者の寒海系のゲンゲ亜目にはウナギガジ、フサギンポ、カズナギ、ガジなどが含まれるタウエガジ科、ハナイトギンポなどを含むゲンゲ科、ヒモギンポ、ニシキギンポなどを含むニシキギンポ科、ボウズギンポのボウズギンポ科などがある。この北方系の科は沿岸のタイドプールから深海にまで広く生息し、深みにすむ種類では大形化する。たとえば磯(いそ)にすむゴマギンポ、カズナギやハナイトギンポでは体長10センチメートルぐらいにしかならないが、深みにすむフサギンポ、ナガズカなどでは80センチメートルぐらいになる。腹びれは普通退化的かまたはない。
ギンポ類の大部分の種類は卵生で、産んだ卵塊を親魚が保護するが、ナガガジは卵胎生で、若魚を産むことで特異である。この類には現在食用として利用されているものが少ないが、今後、利用方法の開発が期待される多くの魚種を含んでいる。
ニシキギンポ科の1種である和名ギンポblenny/Pholis nebulosaは、太平洋側では北海道の南部から高知県や長崎県に、日本海側では石川県以南に分布する。体は細長くて著しく側扁(そくへん)する。口は小さく、斜め上方へ向く。背びれは鰓孔(さいこう)の上方から尾びれの基底部まで達し、すべて鋭い棘(とげ)のみからなる。臀(しり)びれは頭部を除く体の中央部下から尾びれ基底部まで延び、最初の2棘(きょく)を除くと、すべて軟条からなる。腹びれは痕跡(こんせき)的な1棘と1軟条で、胸びれの基底下方に位置する。体は暗緑色、黄緑色、黄褐色など生息場所によってさまざまに変化する。目から下方へ狭い褐色帯が走る。普通、潮だまりやごく沿岸の岩礁地帯の砂泥底や藻場(もば)に生息している。産卵期は冬で、4000~5000の白色の卵を塊状にして産む。親魚は体で卵塊を巻き、孵化(ふか)するまでこれを保護する。孵化した仔魚は全長9ミリメートル前後のシラス状で、体の腹中線に多数の小黒点が並ぶ。胸びれの基部下に明瞭(めいりょう)な1小黒斑(こくはん)がある。体長30センチメートルぐらいになる。ほとんど利用されることはないが、東京地方では春にとれたものをてんぷらの材料として珍重し、独特の風味を楽しむ。
近縁種にタケギンポがあり、両種は著しく類似するが、尾びれの縁辺は白色または透明で、胸びれは比較的長く頭長の約40~54%、胸びれ条数は多くて13~15本であることなどでタケギンポと区別するが、中間型がいて大変むずかしい。
[尼岡邦夫]