ヨーロッパ原産のキンポウゲ科の多年草。12~2月の冬季に開花をするのでこの名がある。冬咲きの草花として有名だが,日本で栽培の多いのは本種ではなく,同属で春咲きのレンテンローズH.orientalis Lam.(英名Lenten rose)や種間交配して作出された品種群であることが多い。いずれも草丈20~40cmの常緑多年草で,黒く短い根茎をもち,葉は根生する掌状複葉をつけ,全株無毛である。直径5~6cmの5枚の萼片が花弁状になった花を咲かせる。クリスマスローズは冬季に白色,のちに紫色をおびる花をつけ,レンテンローズやそれと関係のある雑種起源のものは早春から春に帯黄緑色や帯紫色あるいは紫色の斑点のある花を開く。早咲きのプラエコクス,大輪花のマクラントゥス,花茎の長いアルティフォリウスをはじめ,多くの園芸品種が育成されている。樹下などの排水,保湿のよい半陰地に適した宿根草で,秋または早春に植え付ける。繁殖は株分け,または実生による。
クリスマスローズ属Helleborus(英名bear's foot)は,ヨーロッパから西アジアにかけて10種あまりが分布し,中国大陸西部にも産する。種間雑種が容易で観賞用にされるだけでなく,民間薬としても栽培利用される。クリスマスローズは根にステロイド,ヘレブリンhellebrinなどを含み,強心作用があるという。
執筆者:柳 宗民
クリスマスローズはその黒い根に魔力があると信じられ,古代ギリシア時代には狂気をなおす霊薬の一つに数えられていた。また,頭を良くする薬として当時の劇作家や哲学者が服用したともいわれ,イギリスではこの根を取るための魔術的な方法が定められていた。それは,花のまわりに剣で円を描き,呪文(じゆもん)を唱えて引くというものである。また,引き抜いている姿をワシに見られると,採取者は死ぬともいわれた。《セルボーンの博物誌》には,イギリスの婦人が子どもの虫下しにこの葉の粉末を飲ませるとある。俗説によれば,アダムとイブが楽園を追われたとき,きたるべき罪の浄化の象徴として持ち出したのが,この花であったとされ,以来,この花を〈楽園の思い出〉の象徴とする美意識も生まれ,コールリジやH.G.ウェルズらがそれを文学化した。花言葉は〈私の不安を救いたまえ〉。
執筆者:荒俣 宏
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キンポウゲ科(APG分類:キンポウゲ科)の常緑多年草。ヨーロッパの原産で明治の初めに渡来した。根茎は太く短い。葉は根生し、15~30センチメートル、掌状複葉で革質、暗緑色。小葉は7~9片で先端部に鋸歯(きょし)がある。花茎はよく分岐して1~3花をつける。花の大きさは径5~6センチメートルであるが、花弁は小さく、筒状で、雄しべより短く目だたない。萼(がく)の5片が大きく花弁状をなして美しく、咲き始めは白色で、のちに紫色を帯びる。根にはサポニンが含まれていて強心剤、利尿剤として用いられる。変種も多い。別種のオリエンタリス(ハルザキクリスマスローズ)H. orientalis Lam.は西南アジアの原産で、花茎が分岐して3~6花をつける。緑色または黄緑色で縁辺は紫色。花期は4、5月で、栽培されるものの多くは本種の系統が主体になる。寒さに強く、排水のよい半日陰地を好む。繁殖は11月ころの株分けが普通で、実生(みしょう)もできる。
[猪股正夫 2020年3月18日]
(森和男 東アジア野生植物研究会主宰 / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…しかし用量安全域がせまく,副作用として食欲不振,悪心,嘔吐をさそい,多量に使用すれば心臓停止による死を招く。キンポウゲ科のフクジュソウ,クリスマスローズ,キョウチクトウ科のキョウチクトウ,ストロファンツス,ユリ科のオモト,カイソウ,スズランなどにも同様の成分が存在する。ストロファンツスはアフリカの原住民によって,矢毒として利用されていた。…
※「クリスマスローズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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