クルーグ(読み)くるーぐ(英語表記)Aaron Klug

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クルーグ」の意味・わかりやすい解説

クルーグ
くるーぐ
Aaron Klug
(1926―2018)

イギリスの分子生物学者。リトアニアに生まれたが、幼児のときに南アフリカダーバン移住した。ヨハネスバーグのウィットウォータースランド大学で自然科学を学ぶ。のちケープ・タウン大学で物理学を専攻、1947年に理学修士を取得し、その後も大学にとどまり、X線結晶学を学んだ。1949年にイギリスに渡り、ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所で1952年に博士号を取得した。翌1953年ロンドン大学バークベック・カレッジに移ったが、1962年ケンブリッジ大学に戻り、医学研究会議(MRC:Medical Research Council)分子生物学研究所の研究員となり、1978年主任研究員に昇格した。なお、1986年(昭和61)に仁科(にしな)記念財団の招きで来日、講演を行った。また、日本学士院の客員でもあった。

 バークベック・カレッジ時代にR・E・フランクリンとともにタバコモザイクウイルス構造解明に取り組み、その三次構造(立体構造)を明らかにした。この研究の過程で、電子顕微鏡レーザーを用いて物質の構造を決定する結晶学的電子分光法を開発した。その後、この方法を用いてクロマチンDNAタンパク質複合体)など、複雑なタンパク質複合体の構造解明に成功した。1982年「結晶学的電子分光法を開発し、核酸・タンパク質複合体の構造を解明」した功績により、ノーベル化学賞を受賞した。

[編集部 2018年12月13日]

『大場義樹・水野重樹編著『生物化学実験法22 クロマチン実験法』(1988・学会出版センター)』『カール・ブランデン、ジョン・ツーズ著、勝部幸輝他監訳『タンパク質の構造入門』第2版(2000・ニュートンプレス)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クルーグ」の意味・わかりやすい解説

クルーグ
Klug, Aaron

[生]1926.8.11. リトアニア,ジェルバ
[没]2018.11.20.
リトアニア生まれのイギリスの化学者。3歳で両親と南アフリカ連邦(現南アフリカ共和国)に移住。ヨハネスブルクにあるウィットウォーターズランド大学を卒業。ケープタウン大学修士課程を修めてケンブリッジ大学トリニティ・カレッジの奨学生として渡英,1953年に博士号を取得した。ロンドン大学バークベック・カレッジの研究員となり,タバコモザイクウイルスなどの研究に携わった。1958年同カレッジのウイルス構造研究グループ長となった。1962年フランシス・クリックに招かれてケンブリッジ大学 MRC分子生物学研究所の研究員となり,1986~96年同研究所所長を務め,その後に名誉教授となった。電子顕微鏡像から立体構造を再構成する手法を開発。ウイルスを構成する核酸蛋白質の複合体など,複雑で難しいとされてきた立体構造を解明した。それらの業績により,1982年ノーベル化学賞を受賞。1988年ナイトに叙された。1995~2000年ロイヤル・ソサエティ会長。

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化学辞典 第2版 「クルーグ」の解説

クルーグ
クルーグ
Klug, Aaron

南アフリカ出身のイギリスの分子生物学者.リトアニア生まれのユダヤ系で,幼いころに南アフリカに移住した.ヨハネスブルグのウィトワーテルスラント大学で生化学を学び,ケープタウン大学でX線結晶学を学び修士号を取得.1949年奨学金を得てケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所に入り,1952年学位を取得後,ロンドンのバークベック・カレッジで,R. Franklin(1920~1958年)のもとでX線回折によるタバコモザイクウイルスの構造研究を行う.1962年ケンブリッジ大学に戻り,透過電子顕微鏡によるウイルスの構造の研究をはじめ,顕微鏡像から回折パターンを得て,フィルター処理した後に再構成して画質を改善する方法を開発した.さらにこの方法を拡張して,三次元構造を再構成する方法を開発し,球状やらせん状のウイルスやクロマチンの構造を明らかにした.以上の業績により,1982年ノーベル化学賞を受賞.1995~2000年イギリスのロイヤル・ソサエティ会長を務めた.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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